H.モーザーの歴史とあゆみ
シャフハウゼンの時計産業を築いた伝説のブランド
シャフハウゼンの近代化と時計産業に大きく寄与した盟主 ― 。
サンクトペテルブルグで花開き、ロマノフ家にも愛された至高の時計 ― 。
H.モーザー(H. Moser & Cie.)は、そんな数多の名声に彩られた、伝説の時計ブランドである。
H.モーザーの創業は1828年。創業者のハインリッヒ・モーザーはスイス・シャフハウゼンで代々続く時計師で、ル・ロックルの時計工房で修行を重ねた後に、21歳の若さで独立。
当時のスイス時計界で新市場として注目されていたロシアのサンクトペテルブルグに進出し、同地で自身の会社を設立したのが、H.モーザーの始まりだ。
大成功を収めると、ロシアの事業を部下に任せ、ハインリッヒ・モーザーはスイスに帰国。ロシアで得た莫大な資産を元に、故郷のシャフハウゼンに運河やダムを建設するなど、同地を一大産業地へと発展させた。
ヒゲゼンマイから自社製造する真のマニュファクチュール
だが1970年代のクォーツ式の台頭で、他の多くのスイス時計ブランドと同じく、H.モーザーも休眠状態となる。しかし2002年にIWCの技術部長であったユルゲン・ランゲ博士により劇的に復活。2005年に復活第1作を発表して以降、これまで以上の目覚ましい発展を遂げている。
そうして復興を遂げた新生H.モーザーの最大の特徴は、ムーブメントのパーツ製作会社を設立するなど、徹底したマニュファクチュール化を実現したことだ。わけても、ヒゲゼンマイまで自社製造可能としているのは特筆すべき点。スイスのマニュファクチュールでも一握りの稀有な存在であり、しかもパートナー企業への供給も行っている。
一方、独特のグラデーションが特徴のフュメダイアルなどデザイン面でも個性を発揮。ことに近年は、ダイアル上にインデックスもブランドロゴも印さないコンセプトシリーズで、スイス時計界に大きな存在感を示している。
H.モーザーとMB&Fのスペシャルコラボレーションモデル
エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー × MB&F
エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー × MB&F
さて。そんなH.モーザーとMB&Fが異例のコラボレーションモデルを発表した。
MB&F=マキシミリアン・ブッサー&フレンズは、才能ある時計師とコラボレーションし、アートとマイクロエンジニアリングを駆使した「オロロジカル・マシーン」を作り出すのを特徴とする。どちらも大きなグループに属さない独立系ブランドであるのが共通点で、また、H.モーザーのCEOのエドゥアルド・メイランとMB&Fの創業者のマキシミリアン・ブッサーは10年以上の深い親交を持っている。
H.モーザーのエドゥアルド・メイラン(右)とMB&Fのマキシミリアン・ブッサー(左)
今回のコラボレーションが異例なのは、それぞれがお互いの作品を再解釈した、H.モーザー版とMB&F版の2組のモデルがあること。きっかけはブッサーがメイランにH.モーザーの独自開発である2つのヒゲゼンマイを組み合わせたダブルヘアスプリングと、そしてフュメダイアルとコンセプトシリーズの使用許可を求めたことだ。するとメイランは即座に許諾、交換条件としてMB&Fのマシーンのひとつを使用したいと申し出たのである。
MB&Fの「フライング T」をベースに、H.モーザーがフュメダイアルと円筒型ヒゲゼンマイをプラスした。結果、誕生したH.モーザー版が「エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー × MB&F」。ベースとなったのはブッサーが「特に愛着を抱いている」というMB&Fの「フライング T」だ。
MB&Fのアイデンティティである三次元のムーブメントと、ドーム型のサファイアクリスタル風防、大きく傾斜したダイアル、そして12時位置の立体型のフライングトゥールビヨンという、大胆かつ革新的なデザインが特徴。これにH.モーザーはフュメダイアルと特殊なヒゲゼンマイをプラス。大きな特徴は、円筒型(シリンドリカル)ヒゲゼンマイを採用したことだ。
トゥールビヨンに円筒形ヒゲゼンマイを採用。フュメダイアルを際立たせるよう、時刻表示ダイアルは透明にされている。
18世紀に開発された円筒型ヒゲゼンマイは、当時のマリンクロノメーターに広く使用されていたもので、ウォームギアやコルク栓抜きのように、天真上部に垂直に立ち上がる特性を持つ。天真のホゾの軸に沿って機能するため、同心円状に、すなわち幾何学的に動くという特性を備えるのが特徴。この点が、先端から天真のホゾに負担がかかってしまう通常の平ヒゲゼンマイに比べて大きな利点であり、特別に開発されたブレゲヒゲの外端曲線(フィリップ曲線)によりヒゲゼンマイの補正を行っても、円筒形ヒゲゼンマイはなお精度に優れるのだ。
さらに円筒形ヒゲゼンマイは両先端をブレゲヒゲで固定することにより、天真のホゾの摩擦を軽減し、等時性を大幅に改善することができる。ただし独特の形状のため製造が非常に難しく、通常のヒゲゼンマイに比べて10倍の時間を必要とする。また、高さがあるため普通の時計には搭載できないのも欠点だ。
そして「エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー × MB&F」は、そうした長所と問題点をH.モーザーの優れた技術とMB&Fの卓抜したデザインにより見事にクリアし高い完成度を実現している。まさに両ブランドの実力と個性を高次元で融合させたコラボレーション作品なのだ。
エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー × MB&F
自動巻き、SSケース、ケース径42mm、アリゲーターストラップ、30m防水。各カラー世界限定15本。950万円(税別)(今夏発売予定)
フュメダイアルはファンキーブルー、バーガンディ、コズミックグリーン、オフホワイト、アイスブルーの5カラーで、各15本の世界限定。15本は、H.モーザーの復活15周年と、MB&Fの創業15周年にちなんでいる。
もうひとつのコラボレーションモデルは日本発売未定
(右)レガシーマシン 101 MB&F × H.モーザー
手巻き、SSケース、ケース径40mm、アリゲーターストラップ、30m防水。各カラー世界限定15本。日本未入荷
そしてもう一方のコラボレーションモデルのMB&F版が「レガシーマシン 101 MB&F × H.モーザー」。MB&Fの「レガシーマシン 101」をベースに、前記のようにダブルヘアスプリングとフュメダイアルとコンセプトシリーズの技術とデザインをプラス。フュメダイアルは4カラー用意され、やはり各15本の世界限定。残念ながら日本での販売は予定されていない。
H.MOSER & CIE.
http://h-moser.jp/