かつてない規模の大回顧展「展覧会 岡本太郎」開催

日本万国博覧会、通称大阪万博のテーマ館「太陽の塔」と言えば、誰もが知る芸術家・岡本太郎です。その岡本太郎の芸術家としての人生を振り返る大回顧展が、大阪、東京、名古屋の順で開催されます。代表作はもちろん、これまであまり注目されてこなかった晩年の作品など、主要な作品が勢揃いし、岡本芸術の全容に迫ることができる展覧会となっています。

Ⓒ岡本太郎記念現代芸術振興財団

岡本太郎とは「全存在として猛烈に生きる人間」である

岡本太郎は1929年に渡仏し、抽象表現に影響を受け画家としてのアイデンティティを確立していきます。帰国後は、『今日の芸術』、『日本の伝統』などの著作において、文化・芸術論を提唱。「太陽の塔」をはじめとする公共空間に置かれる彫刻や壁画など、生活の中で生きる作品は「芸術は大衆のものである」という岡本太郎の信念を象徴しています。表現活動が多岐にわたることから、「何が本職なのか」と問われることも多かった岡本太郎ですが、そのこたえは「人間。全存在として猛烈に生きる人間」でした。
岡本太郎の思想や生き様が込められた作品を体感することは、不安定な状況が続く現在の社会を生き抜くヒントになるかもしれません。本展は、岡本芸術の特質と本質、さらにはその根底にある人間・岡本太郎を、展覧会場の空間を通して感じることができる体験型の展覧会です。

“人間”として生きることを学んだパリ

岡本太郎 《空間》 1934/54年 川崎市岡本太郎美術館蔵 Ⓒ岡本太郎記念現代芸術振興財団

岡本は1929年、18歳で家族とともにヨーロッパに渡ります。家族の帰国後も単身パリに残り芸術家を目指しはじめました。ピカソ作品との衝撃的な出会いや前衛芸術家たちとの深い交わり、最先端の芸術運動に身を投じていきます。パリ大学では、哲学や社会学に加え民俗学も学び、その後の岡本芸術を生み出す礎を築きます。後に岡本は「ぼくはパリで、人間全体として生きることを学んだ。画家とか彫刻家とか一つの職業に限定されないで、もっと広く人間、全存在そして生きる」(『壁を破る言葉』イースト・プレス、2005年)と述べたように、人間・岡本太郎誕生の背景はパリ生活にあったといえるでしょう。

日本の文化を挑発し、前衛芸術運動を興す

パリから帰国し、第二次世界大戦へと出征。戦後は旧態依然とした美術界の変革を目指し、「夜の会」を結成します。抽象と具象、愛憎、美醜など対立する要素が生み出す軋轢のエネルギーを提示する「対極主義」を掲げ、前衛芸術運動を開始。また、新しい芸術思想をしめした著書『今日の芸術』がベストセラーとなり、芸術の牽引者というだけでなく、文化領域全体の挑発者としての存在感を増していきました。また前衛芸術運動を推し進める一方、日本文化にも惹かれ、それまでの作風を替えるきっかけにもなった縄文土器と出会い、日本各地で実施調査を行うようになります。

岡本太郎 《燃える人》 1955年 東京国立近代美術館蔵 Ⓒ岡本太郎記念現代芸術振興財団

芸術は大衆のものである

1952年に絵画の工業生産化の提案として制作されたモザイクタイルを用いた作品『太陽の神話』をきっかけに、作品は、画廊や美術館から飛び出し、地下鉄通路や庁舎の壁画や屋外彫刻などのパブリックアートへと広がっていきます。さらに、時計や植木鉢などの生活用品なども制作され、大衆にダイレクトに語りかけていくようになります。

岡本太郎 《犬の植木鉢》 1955年 川崎市岡本太郎美術館蔵 Ⓒ岡本太郎記念現代芸術振興財団

岡本太郎 《光る彫刻》 1967年 川崎市岡本太郎美術館蔵 Ⓒ岡本太郎記念現代芸術振興財団

ふたつの太陽が意味するものとは

そして、1970年の大阪万博。その「テーマ館」のプロデュースを任された岡本太郎は、人間にとっての真の「進歩と調和」は、科学技術の推進に限るものでも、同調やなれ合いによるものでもないとし、人間の太古からの根源的なエネルギーを象徴させた「太陽の塔」を制作しました。そして「太陽の塔」と並行して描かれたのが、現在渋谷駅に設置されている巨大壁画「明日の神話」です。原子爆弾を主題に人類の進歩に内在する負の側面を見据え、それを乗り越えていく人類の未来への期待がこめられています。「明日の神話」はメキシコのホテルのために制作された幅30mの壁画で、長らく所在が不明となっていましたが2003年に発見され、2008年に渋谷駅に設置されました。

【参考図版】岡本太郎 《太陽の塔》 1970年(万博記念公園)

大阪万博を経てより広く受け入れられるになった岡本太郎は、テレビ番組やCMなどに多く登場し、名台詞「芸術は爆発だ!」を残し、日本で最も顔を知られる芸術家となります。その後も制作への意欲は衰えず、1996年にこの世を去るまで、自らの芸術をダイナミックに追求し続けました。そのエネルギッシュでダイナミックなパワー溢れる絵画や彫刻などの芸術作品や著作などは、世代を超えて愛され、今を生きる人々に力を与えてくれます。

「展覧会 岡本太郎」
https://taro2022.jp
・大阪展
会期:~10月2日(日)
場所:大阪中之島美術館
開催時間:10:00~18:00(最終入場は17:30まで)、月曜休
・東京展
会期:10月18日(火)~12月28日(水)
場所:東京都美術館
開催時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(採集入場は閉室の30分前まで)、月曜休
※日時指定予約が必要です
・愛知展
会期:2023年1月14日(土)~3月14日(火)
場所:愛知県美術館
詳細未定

関連記事

  1. H.モーザーの貴重なコンプリケーションの新作2モデルが日本に入荷

  2. streamliner

    レインボーカラーを纏った「ストリームライナー」の 新作2モデルが、ついに日本に入荷

  3. リシャール・ミルの新作は、甘く懐かしい時間に誘うタイムマシン?

  4. 世界最高峰のヒストリックカー・レース「ル・マン クラシック」。同祭典を讃えるリシャール・ミルの最新限…

  5. ビスポークの最高級時計ケース「RE・LEAF ウォッチストレージ」

  6. 時計連載 / H.モーザー vol.01

  7. リシャール・ミルがフェラーリとの数年間にわたるパートナーシップを発表!

  8. 特別連載 リシャール・ミル 福岡

  9. 時計連載 / H.モーザー vol.02

人気記事 PICK UP!

HOT TOPICS

おすすめ記事

  1. フェンディ カーサ、モダンになって復刻。
  2. 西中千人 フランスのシャトーホテルで煌めく、西中千人のガラスアートの世界
  3. ルイ・ヴィトンのテーブル・フットボール&ビリヤードテーブルが登場
  4. hemel 台湾発オートクチュール・ブリュードティー「HEMEL(ヘイメル)」が日本での先行…
  5. shinjiohmaki 壮大なスケールでのインスタレーションを体験する―「大巻伸嗣 Interface …
  6. 日本茶の最高峰「八女伝統本玉露」のボトリングティー
  7. shirokuramata 伝説のデザイナー倉俣史朗のデザインの先にあるものを掘り下げる「倉俣史朗のデザイン…
  8. shisui 時の流れを感じられる「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」開業
  9. プライベートジェットで瀬戸内に浮かぶ宿、guntûへ
  10. tapkop 阿寒摩周国立公園内に誕生した1日1組限定の宿「TAPKOP」
PAGE TOP