時計連載 / H.モーザー vol.01

美しい文字盤と高い技術力で近年時計好きの間で話題となっている“H.モーザー”。
“VERY RARE”を提唱し注目度が増しているスイスのマニュファクチュールブランドの魅力を識者に伺った連載がスタートです。

時計ジャーナリストで時計専門WEBサイト「Gressive」編集長の名畑政治氏は、H.モーザーが日本に上陸する前から注目し、スイスでH.モーザーのアンティーク時計を入手し愛用しているほどのH.モーザー通。そんな名畑氏にH.モーザーの魅力を出合いから現在にいたるまで語ってもらいました。

—–執筆—–
名畑政治氏/時計ジャーナリスト
本格時計専門WEBマガジン「Gressive」編集長。85年からフリーライターとしての活動をスタート。スイスのジュネーブやバーゼルで開催されるフェアへは94年から毎年取材を行う。
また時計だけでなく、カメラ、アイウェア、ミリタリーアイテムなどにも精通し、時計専門誌や男性誌など様々な媒体へ執筆、幅広い分野で活躍している。

時計コレクターとの出会いが育んだH.モーザーへの憧憬

私が最初にH.モーザーの時計を手に入れたのは1999年7月のことでした。
と書くと「H.モーザーの復活は2000年代になってからでは?」と思う方も多いでしょう。実は私が最初に手に入れた現代のH.モーザーではなく、アンティークだったのです。

そもそも、私がH.モーザーに興味を持つきっかけは、1995年にある雑誌の企画で時計コレクターを取材したことでした。
デザインの専門家であるそのコレクターは、現行の前衛的なモデルを始めとして、何本かのアンティーク・ウォッチを所有していましたが、彼の一番のお気に入りが20世紀初頭に作られたH.モーザーのアンティークだったのです。

懐中時計から腕時計への移行期に作られたと思われるそのH.モーザーは、小型の懐中時計用ムーブメントをワイヤーラグで溶接したラウンド型ケースに収めた華奢なデザインのものでした。しかし、古いものだとはいえ、私はその高い品質に心を奪われたのです。
それ以来、私の心に「いつかアンティークのH.モーザーを手に入れたい」という思いが宿ったのでした。

やがて1999年春、ウェブを検索していたところ、バーゼルのメッセ会場近くにある馴染みのアンティーク時計店の在庫リストに、やはり懐中時計から腕時計への過渡期に作られたアンティークのH.モーザーを発見しました。
しかし、その店のウェブページには”ムーブメントが素晴らしい“という説明がありながら、肝心のムーブメントの写真が掲載されていなかったのです。
そこで店主にメールで問い合わせると、「了解した。ただし、今は忙しいので、ちょっと待ってくれ」という返事が届きました。

ところが待てど暮らせどムーブメントの写真は届きませんし、ウェブにも掲載されません。
そんな時、ある時計ブランドの取材で7月にスイス渡航が決まり、取材後のぽっかりと空いた時間を利用して、レンタカーを使ってラ・ショー・ド・フォンを訪ねることにしました。

まず世界的にも有名な「国際時計博物館」を見学。その後、博物館の前にある行きつけのアンティーク時計店を訪問しました。
すると、そのショーケースに、なんとバーゼルの店のサイトに掲載されていたものと同じアンティークのH.モーザーが並んでいるじゃないですか!
早速、店主に頼んで裏蓋を開けてもらうと、確かに美しく高品質なムーブメントが収まっています。しかも価格はバーゼルの店のほぼ半額。
「こっちの方がいい!」と決断し、即座に購入したのは当然です。

こうして念願だったアンティーク・モーザーの入手に成功し、この時計は私の宝物となりました。

名畑氏愛用のアンティークのH.モーザー

日本への正式上陸前に知ったH.モーザーの独自性と凄さ

見事に高品質なアンティークのH.モーザーを入手した私でしたが、H.モーザーとの奇妙な縁は、これで終わりではありませんでした。
それは2005年12月のこと。時計専門誌で「ルノー・エ・パピを巣立った時計師たち」という企画で、チューリッヒの北にあるヴィンタートゥールにある独立時計師アンドレアス・ストレーラー氏の工房を訪れた時でした。

              撮影/高橋和幸(PACO)

撮影/高橋和幸(PACO)

ストレーラー氏は時計学校卒業後、すぐに高級複雑時計開発工房「ルノー・エ・パピ」に入社し、複雑時計の開発に携わったという天才時計師です。
彼と最初に会ったのは1999年のバーゼルフェアでの独立時計師アカデミーのブースであり、その翌年にはヴィンタートゥールの工房を取材しましたが、その後、彼がどんな仕事をしているのか不明だったので、是非、それを知りたいと考え、改めて彼の工房を訪ねることにしたのです。
「今、あなたはどんな仕事をしているのですか?」そんな私の質問に応えて彼が見せてくれたのが、なんと完成したばかりのH.モーザーの新しいムーブメントだったのです。

ストレーラー氏いわく「脱進機がユニットで交換できる構造はH.モーザーからの依頼ですが、構造自体は私の考案です。また『ダブル・プル・クラウン』は、何気無く操作しても、時計のほうでうまくやってくれる、ということ。時計に複雑機構を入れるより、使い手に便利な機能を実現することが私の理想です」と説明してくれました。

ストレーラー氏が言う「使い手に便利な機能」。その代表例がH.モーザーならではの「パーペチュアルカレンダー」のシステムです。

通常、パーペチュアルカレンダーというと、文字盤の中にいくつものインダイアルや窓があり、そこで月や曜日、日付、うるう年などを表示するものが大半ですが、H.モーザーの場合、一見すると普通の三針モデルかと思うほどシンプルです。
しかし実際には、センターの長短針の下伸びた小さな針で月を示し、日付表示の窓で30日と31日の月を自動判断して表示。この日付は、うるう年には2月29日から3月1日に移る際にも正しく29から1へジャンプします。
このメカニズムは深夜0時に瞬時に日付が変わるところから「フラッシュ・カレンダー」と呼ばれており、すでに紹介した通りストレーラー氏の開発によるものです。

H.モーザーの代表的なパーペチュアルカレンダー搭載モデル
「エンデバー・パーペチュアルカレンダー タンタル ブルーエナメル」

このモデルは12月12日10時12分38秒を表示。9時位置の針はパワーリザーブ表示。

ケースバックから中央少し上に配置されているうるう年の表示を確認することができます。

このメカニズムは時刻合わせの際にうっかり日付を進めても逆行が可能。しかも24時間いつでもリューズ操作で日付を修正できるという利点があります。さらにうるう年の表示はムーブメント側に置かれ、9時位置のプッシュボタンで調整できます。

時計専門紙の取材でストレーラー氏を取材しているのとほぼ同時期に、こんなに独創的でしかも歴史的にも価値のあるブランドであるH.モーザーを日本で展開すべく日本の代理店が当時のH.モーザーCEOであるユルゲン・ランゲ博士らと代理店獲得の交渉中だったことが後に判明しました。

そして、この時のストレーラー氏への取材が、H.モーザー日本上陸時の紹介原稿に存分に生かされたことはもちろんです。さらに、これによって、その後のH.モーザーの時計作りと展開に私の興味が注がれる基盤が作られたのです。

次回は、「驚きと発見に満ちたH.モーザーの歴史」をお届けいたします。

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