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FIA世界耐久選手権の開幕戦に合わせて発表された、リシャール・ミルレーシングチームの名を冠した「RM 07-01 オートマティック レーシングレッド」をご紹介します。
今回は、頻繁にフランスに渡航し、自動車、男性ファッション、旅などの媒体を中心に寄稿され、リシャール・ミルがスポンサードしているル・マン クラシックやシャンティイ アート&エレガンスなども毎回取材している南陽一浩さんに、新作モデルとともにレース界における現在を交えてご紹介いただきました。また、リシャール・ミルのアフターサービスを担当している本社公認の時計技術者、竹中茂喜さんにも今作の注目すべきプロダクト部分についてお伺いしました。
なぜ100%女性ドライバーのチームがFIA WECに挑むのか
Photo Florent Gooden / DPPI
左からタチアナ・カルデロン、ソフィア・フローシュ、ベイスク・フィッセール
開幕戦になるはずだったセブリング1000マイルに続き、ポルトガルのポルティマオン6時間も延期されたため、2021年のFIA世界耐久選手権(以下、WEC))のシーズン開幕は5月1日のスパ・フランコルシャン6時間にもちこされた。だがシーズンのリハーサルともいえる「WECプロローグ」こと公式テストは、すでに4月26日からベルギーの同サーキットで始まっている。そして同時に、リシャール・ミルから「RM 07-01 オートマティック レーシングレッド」が発表された。
Photo Florent Gooden / DPPI
既報の通り、リシャール・ミルがサポートする「リシャール・ミル レーシングチーム」は、2020年のヨーロピアン・ル・マンシリーズから、今シーズンはWECへとステップアップし、冒頭に紹介した 3 人の女性ドライバーたち、 タチアナ・カルデロン とベイスク・フィッセール、ソフィア・フローシュはLMP2クラスに参戦する。そのシーズンインを機に、彼女たちが駆るレースマシンでありながら、「Roxy」と愛称で呼ぶ#01のオレカ07ギブソン、そのボディカラーをまとったタイムピースとして、「RM 07-01 オートマティック レーシングレッド」が登場した訳だ。
Photo Florent Gooden / DPPI
Photo Joao Filipe / DPPI
ここ数年来、#me tooに代表されるフェミニズム運動の盛り上がりはスポーツの世界でも顕著だが、リシャール・ミル レーシングチームの100%女性ドライバーという布陣は、目先のトレンドを追うような話ではない。というのもWECの他にもF1など世界中のモータースポーツを統括するFIAは、2009年以来「ウーマン・イン・モータースポーツ」という委員会を創設しており、男性社会と見られやすいモータースポーツにおいて、女性がどれだけ責任ある役割を多く担い、高い能力でもって貢献しているか、さらに認知度を高めることを旨としている。
実際、委員会のメンバーには、ル・マン24時間で女性初のクラス優勝を果たし、WRCラリーで目覚ましい活躍をしたミシェル・ムートン、ラリーレイドで豊富な実績を残したユタ・クラインシュミットら、往年のドライバーがいるだけではない。アウディを何度もル・マン総合優勝に導いたエンジニアのリーナ・ゲイドや、コースマーシャル組織の代表であるシルヴィア・ベロが含まれ、さらに現役の女性ドライバーとして、タチアナ・カルデロンも名を連ねている。
Photo Florent Gooden / DPPI
自身の名を冠したウォッチメイキング会社の外では、FIAのエンデュランス委員長を務めるリシャール・ミルにとって、モータースポーツにおける女性の活躍と貢献は、守るべき命題であり、今以上に発展すべき課題でもある。
とくに四輪モータースポーツは高速下での耐G性はあれど、男女がフィジカルの差なく同じ土俵で戦える稀有なスポーツであり、ドライバーだけでなくチームマネージャーやエンジニア、メカニックやロジスティック担当やコースマーシャルなど、これまた性別を問わない様々な職種で構成される競技でもある。それこそレースの場でなくても、自動車は日常生活に利便性をもたらし、交通安全を意識させつつ、女性の自立や独立を援けるツールともなる。
▲リシャール・ミル氏
そもそも、欧州や世界でハイレベルなフォーミュラのレースを闘う実力派の女性ドライバー3名を見い出してリクルートできること自体が、リシャール・ミル レーシングチームのノウハウであり慧眼だが、耐久レースを女性ドライバーが走ること自体は珍しいことではない。WECシリーズの檜舞台にして世界最大の耐久レースであるル・マン24時間では、すでに1930年、オデット・シコ/マルグリット・マルーズという当時30歳と41歳の女性2人組が参戦し、総合7位でゴールしている。前者は2年後に男性ドライバーと組んで総合4位でフィニッシュし、これは女性ドライバーの記録した総合順位のベスト・リザルトとして、今も破られていない。
じつは第二次大戦の中断を挟んで、ほぼ毎年ル・マンには女性ドライバーが出走していたが、1955年にスタンドの観客数十名を巻き込む大事故が起きたのを機に、何と女性の参戦が認められなくなった。こうして女性ドライバーのいない60年代が過ぎて1971年、折からのフェミニズム運動の盛り上がりを受けて禁が解かれた経緯がある。70年代には石油会社にスポンサードされた女性ドライバーのチームが毎年のようにいたし、1975年にはミシェル・ムートン/クリスティーヌ・ダクレモン/マリアンヌ・ヘフナーが女性ドライバーとして初めてクラス優勝を飾った。その後も女性ドライバーの参戦は続いているが、近年では2011年にジャッキー・イクスの娘、ヴァニナ・イクスが記録した総合7位が最高位となっている。
以上から、リシャール・ミル レーシングのチャレンジが透けて見えてくる。彼女たちのLMP2マシン「Roxy」を、テクニカル面で支えるのは、ここ数年でアルピーヌのワークスチームとしてLMP2クラス優勝を3度も実現しているフランスの名門レースエンジニアリング会社、シグナテック。オレカ07シャシーにギブソンの4.2L・V8エンジンは、LMP2クラスを走るプライベーターチームにとってスタンダードといえるが、厳しいイコールコンディションの闘いから何度も優勝し、自家薬籠中のメカニズムとしているのがシグナテックだ。いわば優勝を狙えるほど充実した体制でLMP2クラスのトップグループを目指すすことは最重要だが、上位クラスのLMH(ハイパーカー)が初年度となる今シーズン、ワークスはトヨタ2台とアルピーヌの3台しかいない。無論、勝負は水ものではあるが、上位クラスにリタイアが出たりしたら、リシャール・ミル レーシングの女性ドライバーたちが、総合4位というオデット・シコの1932年以来の記録を塗り替えることも視野に入ってくる。そこが女性ドライバー3名にとっての聖杯であり、打ち立てられたらモータースポーツの歴史における金字塔という訳だ。
Photo Florent Gooden / DPPI
Photo Florent Gooden / DPPI
Photo Joao Filipe / DPPI
つまりRM 07-01の「レーシングレッド」は単純に、女性が耐久レースを走っていることを象徴して赤いわけではない。モータースポーツの歴史という時間に対して、現役の女性たちが矜持とプライドをもって挑むからこそ、自分が自分らしくいるために敢えてハードルを上げるからこその、鮮やかな赤なのだ。ショッキングピンクというよりパティスリーでいうフリュイ・ルージュ(ベリーやフランボワーズなどの漿果系)のような赤は、じつは装いを選ばず日常的に合わせやすく、24時間365日を共にするのにふさわしい「愛機」となる。そして望む勝利を手にできた暁には、永遠のラッキーチャームとなるはずだ。
文/南陽一浩(なんよう・かずひろ)
1971年生まれ、静岡県出身、フリーライター。2001年に渡仏しランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学にて修士号取得後パリを拠点に日仏の自動車専門誌や男性誌に寄稿。2014年に帰国して現在は日本に拠点を移し、雑誌全般とウェブ媒体で試乗記やコラム、紀行文等を担当。2020年よりAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
リシャール・ミル アフターサービス 時計技術者がみる
ココに注目!
リシャール・ミル レーシングチームのモデルということで、これまでのRM 07-01 よりもスポーティさが強調されているように思います。まずはリューズです。これまで多くのリシャール・ミルのレディスモデルには円錐型のリューズが採用され、エレガントな印象を与えていました。ですが、今回採用されたのはブランド初期モデルのRM005等に使われたデザインで車のタイヤとホイールの様な円柱型。円錐型よりもスポーティでかっこいい印象を受けます。
次にベゼルとケースに採用された素材にも改めて注目したいと思います。まずケースのカーボンTPT®は、レーシングカーにも使用される素材で、軽さと堅牢さを持ち合わせています。そしてカーボンTPT®の基礎技術の応用として開発されたのがベゼルに使用されているクオーツTPT®。こちらも軽くて丈夫、レーサーが受けうる衝撃にも負けないでしょう。これらの素材は、繊維をまとめた極薄シート層を角度変えながら隙間なく重ねて加工し、切削するとランダムに模様が表れ、ひとつとして同じものはなく、それだけでユニークピースといっても過言ではないのです。
細部のデザインや素材にまでこだわりが詰まったRM 07-01 レーシングレッドを女性レーサーが身に着け表彰台に上がる日が楽しみですね。
文/竹中茂喜(たけなか・しげき)
時計修理技能士1級を持つリシャールミルジャパン テクニカルマイスター。年に数回スイス、レ・ブルルーにある工房でトレーニングを受けリシャール・ミルを熟知するひとり。
予選は4月30日(金)現地時間の夕方から、スパ・フランコルシャン6時間レースは5月1日(土)現地時間午後1時半にスタートします。プログラム– スパ・フランコルシャン6時間レース(全て現地時間)
4月30日(金)
9 :30~11 :00:フリープラクティス2回目
14 :00~15 :00:フリープラクティス3回目
18 :40~18 :50:予選ラウンド
5月1日(土)
13 :30~19 :30:スパ・フランコルシャン6時間レース2021年FIA世界耐久選手権日程
4月26日・27日:プロローグ– スパ・フランコルシャン(ベルギー)
5月1日:スパ・フランコルシャン6時間レース(ベルギー)
6月13日:ポルティマオ8時間レース(ポルトガル)
7月18日:モンツァ6時間レース(イタリア)
8月21日・22日:ル・マン24時間レース(フランス)
9月26日:富士6時間レース(日本)
11月20日:バーレーン8時間レース(バーレーン)
「RM 07-01 オートマティック レーシングレッド」
自動巻き(自社開発キャリバーCRMA2)、レッドクオーツTPT®×カーボンTPT®ケース、ケースサイズ:45.66 x 31.40 x 11.85mm、ベルクロストラップ、50m防水、世界限定50本、13,200,000円(税込予価)
問い合わせ先:リシャールミルジャパン
TEL.03-5511-1555
https://www.richardmille.com/ja