Salon du Chocolat 2025 ― 30年を迎えた“ショコラの祭典”

写真/文: 櫻井朋成
Photo/text: Tomonari Sakurai

1995年、パリで産声を上げた〈サロン・デュ・ショコラ〉が、今年で30周年を迎えた。
このイベントは、単なるチョコレートの展示会にとどまらず、世界のカカオ文化を牽引してきた食の祭典であり、職人と農園、ブランドと消費者、そして伝統と革新を結びつけてきた貴重な舞台でもある。

日本のショコラティエが世界に発信する舞台



日本では2003年から開催され、今や冬の風物詩として定着した。各地で行われる〈サロン・デュ・ショコラ〉は、フランス本国の影響を受けながらも独自の発展を遂げ、日本のショコラティエたちが世界に発信する重要な舞台ともなっている。とりわけ、フランス会場では年々その存在感を強める日本勢の活躍が際立ち、抹茶や柚子、味噌といった和の素材を取り入れた独創的なクリエーションが注目を集めている。

新たな局面を迎えるサロン


この秋、パリの会場には久々にかつての熱気が戻ってきた。コロナ禍を経て一時は縮小した規模も徐々に回復し、来場者とショコラティエ双方の情熱が再び交差している。その一方で、近年は職人の物語性や素材探求に加え、アート性・エシカル性・ビジュアル表現を重視する傾向も見られる。食文化の中でショコラをどのように表現し続けるか――サロンはその新たな局面を迎えているようだ。

文化の評価機関へと発展するサロン

節目の年となる2025年には、新たな受賞制度〈Les Éclats du Chocolat〉が設立された。味覚・倫理・創造性を兼ね備えた作品を表彰するこの賞は、職人たちの技術力だけでなく、環境や生産地への意識、デザイン性など多面的な価値を評価するものとして注目を集めている。また、パティスリー文化を支える出版の分野でも「Cultures Sucre パティスリーブック賞」が創設され、第1回にはクロエ・アマ(Cloé Amat)氏の著書『Les Pépites de Cloé』が選ばれた。サロンが“発表の場”から“文化の評価機関”へと発展しつつあることを象徴する出来事だ。

来場者の愉しみ〈ブッシュ・ド・ノエル〉


そして、毎年多くの来場者が楽しみにしているのが、〈ブッシュ・ド・ノエル〉の展示である。クリスマスを前に、各ホテルやメゾンのシェフ・パティシエたちが一堂に会し、芸術性と味覚の両面で競い合う。マンダリン・オリエンタル、ピエール・エルメ、ホテル・ド・クリヨン、ラ・レゼルヴなど、パリを代表する名だたるメゾンが織りなす華やかな競演は、まるでガストロノミーとデザインが融合した冬の美術展のようだ。

世界各地の新しい才能の登場


また、世界各地から新しい才能も登場している。台湾の〈Mano Mano〉が発表した、花の香りとお茶の風味をテーマにしたマカロンはその象徴といえる。アジアの感性とフランス菓子の精緻さが響き合うその世界観は、ショコラ文化の次なる潮流を予感させた。

30周年を迎えたサロン・デュ・ショコラ。
その歩みは、時代とともに変化しながらも、チョコレートを“文化”として語り継ぎ、世界の食の未来を描く場であり続けている。
パリの秋を彩るこの祭典は、これからもなお、ショコラ界の羅針盤であり続けるだろう。

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ウォルドーフ・アストリア ヴェルサイユ〈トリアノン・パレス〉のパティシエ、エディ・ベンガネムによる「Étoile d’hiver(冬の星)」。薄いミルクチョコレート(カカオ50%)のコックの下に、2種のバニラの軽いクリーム、ミルクチョコのナメラカ、フルール・ド・セルのキャラメル、シリアル入りのザクっとしたクランブルビスキュイを重ねる。祝祭のきらめきを閉じ込めた、上品でどこかノスタルジックな味わい。

櫻井朋成

写真家。フォトライター

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

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