フレンチの鬼才が手がける前衛的レストラン「NINE by La Cime」

イノベーティブな感性とクラシックな技が光るコース

「丸の内テラス」の9階と10階を占める「THE UPPER(アッパー)」は、様々な人気飲食店を手がけるトランジットジェネラルオフィスのフラッグシップレストラン。大阪の2ツ星レストラン「La Cime」の高田裕介シェフをパートナーとして迎え、既成概念にとらわれないメニューを提供している話題のグルメスポットだ。そんな「THE UPPER」の9階が2022年7月、「NINE by La Cime(ナイン バイ ラ シーム)」という店名を冠して始動した。10階は高田シェフの原点であるフランスの現地さながらの大衆的かつカジュアルなアラカルトが人気のブラッスリーだが、9階の「NINE by La Cime」は都会の喧騒から離れた静寂の中で独創的なコースを提供するレストラン。イノベーティブな感性とクラシックな技が光る「シーズナルテイスティングメニュー」(19,800円)には、香りをテーマとした季節替わりの約12皿が登場する。
パートナーシェフである高田裕介氏の「La Cime」は、2016年から2ツ星を保持し、2022年には「Asia’s 50 Best Restaurant」で6位に選出された有名店。フランス料理をベースとしつつも常に進化を続け、ジャンルの枠におさまらない独自のスタイルで知られる。そんな「La Cime」の高田氏のコンセプトを厨房で形にするのは、トランジットジェネラルオフィスのコーポレートシェフ、徳島亨氏。ホテル日航東京(現ヒルトン東京お台場)のモダン・フレンチレストランや都内のビストロで経験を積んだ徳島シェフは、日本の食文化を落とし込んだ料理を得意とするベテランだ。
ドリンクはフランスをメインとする世界各国のワイン約200種類をはじめ、カクテルも豊富。ペアリングメニューはアルコールだけでなくノンアルコールも用意されており、ここでしか味わえないクリエイティブなドリンクを楽しむことができる。

アミューズは小石のような「ブーダンドック」

全国各地の食材を活かしてつくられるコースの1品目「ブーダンドッグ」は、大阪「La Cime」のスペシャリテをアレンジしたもの。ネーミングはフランスの伝統料理である豚の血入りの腸詰“ブーダンノワール”と“ホットドッグ”にちなんでいる。「La Cime」では竹炭入りの衣をつけて揚げた“ブーダンノワール”が熱々の石に乗せて提供されるが、「NINE by La Cime」版の「ブーダンドッグ」は、徳島シェフの故郷・福島産の鯉のペーストを包んで揚げたオリジナル。鯉の身や血合いや内臓を用いたペーストは、隠し味の鶏軟骨の食感が小気味良く、アメリカンドックのようなふわりとした衣のほのかな甘みとも相性抜群だ。ドリンクのペアリングは、アルコールの場合はシャンパーニュ、ノンアルコールの場合は「自家製コーラカクテル」が登場。「自家製コーラカクテル」は1950年代のレシピをひもとき、クローブ、シナモン、焦がしキャラメル、ラベンダーなどを使ってつくられたもので、香りの良さが印象的だ。

ライチとローズの香りが華やかな「ライチ」

初秋のコースの2皿目「ライチ」は、ライチとローズの華やかな香りに、ローズウォーターでマリネされた高知産キャビアの塩気がより添うアミューズ。スプーンに盛り付けられたライチのジュレとローズウォーターのクリーム、キャビアはバラの花びらで囲まれており、口に入れるとそれぞれの食材の香りが時間差でなめらかに広がる。ノンアルコール・ペアリングで出されるのは、クラリファイド・ピーチジュースに“ゆかり(シソ)”を加え、トンカ豆の香りをスプレーしたドリンク。豊かな香りのハーモニーを満喫すると、心も華やぐ。
コースの中には、ドジョウやドロメ(生しらす)、サザエ モズク、谷中生姜など、フランス料理にはあまり用いられない日本の食材も頻繁に登場する。とはいえ、和食を食べているように感じることは決してない。たとえば「ドジョウ ナス」は、カリッと香ばしく焼いたドジョウの一夜干しをカカオニブの海の中を泳ぐように盛り付け、ナスのピュレを包んだカカオニブのシートを添えたアミューズ。ナスのピュレの中にはドジョウと相性のよい“青たで”も混ぜられている。そのプレゼンテーションはまさに前衛的だが、奇をてらうわけではなく、ドジョウとカカオニブとナスの“苦味”や“温度差”を楽しむべく考案された料理だという。

日本独自の食材が創り出すユニークな美味

コースの中盤に登場する「ドロメ パプリカ」は、パプリカのムースの上にドロメの昆布締めをのせたもの。これにあわせてせいろで運ばれる“よもぎの蒸しパン”は、熱した石に水を加えて蒸気でスチームするプレゼンテーションが楽しく、蒸気と共に立ち上るよもぎの香りが絶妙だ。次に口直しとして供される「サザエ モズク」は、“サザエ”と“モズク”の2皿構成。“サザエ”は茶豆とともにスモークしたサザエと肝のソース、だだ茶豆、オカヒジキとカボスのコンフィチュールのサラダ仕立てを重ねたさっぱりした味わいで、“モズク”はもずく酢にじゅんさいや白すぐりを浮かべたすっきりした味わいだ。
続く一品「骨髄 谷中生姜」は、牛骨髄とコンソメのフランが主役。付け合わせの谷中生姜は、コンソメとかつおだしで下味をつけ、そば粉をまぶして揚げられている。ノンアルコール・ペアリングのドリンクは“どぶろく”をイメージして甘酒とシェリービネガーを合わせたもので、まろやかな発酵の風味がフランと好相性。ここで登場するパンは、酒粕を使ったカンパーニュと豆乳を使ったヴィーガンバター。香りも味わいも柔らかく、心が和むような味わいだ。
「アスパラガス 岩牡蠣」は、鮎の魚醤と海苔の出汁でマリネして焼いた岩牡蠣に、アスパラガスの炭火焼きを添えた温かな一品。アスパラガスの炭火焼は“アスパラ発酵エキス”のソースと、ソテーした広島県産の牡蠣のエスプーマと共に味わう趣向で、岩牡蠣との相性のよさに気付かされる。
メインディッシュは、高田シェフの出身地である奄美大島の島豚。奄美大島の産物は、料理だけでなく、インテリアにも採用されており、椅子やナイフレストには紅タブという木材が使われている。店名は、1桁の数字として最大である「9」に“究極のもの”という意味を込めた「NINE」と、フランス語で“頂上”を意味する「La Cime」を合わせたもの。常に進化し続ける一期一会の料理で「究極の頂きへ導く」という想いが込められている。
コースの内容は10月中旬に替わる予定。丸の内の美食の最先端スポットで、シェフのクリエイティビティと旬の味覚を堪能したい。

Nine by La Cime ナイン バイ ラ シーム
東京都千代田区丸の内 1-3-4 丸の内テラス 9F
TEL:03-6206-3939
営業時間:18:00〜23:00 (最終入店20:00)
定休日 日曜日・月曜日
https://the-upper.jp/nine_by_lacime/
※予約の受付はWEBのみ

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