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色彩と曲線が響き合う夏──ホックニー、ルイ・ヴィトン財団、そして森の遊園地


Fondation Louis-Vuitton(パリ、ブローニュの森に隣接)では、2025年4月9日から8月31日まで、デヴィッド・ホックニーの大規模回顧展「David Hockney 25」が開催されている。

最新技術でアートに挑む革新者・デヴィッド・ホックニー


デヴィッド・ホックニー(1937年生まれ)は、20〜21世紀を代表する英国の画家・版画家・舞台美術家であり、初期のロサンゼルス風景や肖像画から、最新のデジタル作品や舞台装置まで、多彩な表現を続けてきた革新者だ。画面を切り取るような鮮やかな色彩、時間と視点の遊び、テクノロジーとの対話──その作品は、日常風景の美や自然への賛歌、人間のつながりや視覚的喜びを一貫して描き出してきた。

回顧展のテーマは「春を取り戻そう(Do remember they can’t cancel the spring)」


今回の展示では、1955年から2025年まで約70年にわたる創作を網羅し、油彩やアクリル画、ドローイング、iPhoneやiPadを用いたデジタル作品、インスタレーションなど400点以上が並ぶ。初期の1960年代の肖像画から、ノルマンディやヨークシャーの風景、象徴的な「Bigger Trees Near Warter」や「A Bigger Splash」、モネやムンク、ブレイクに捧げたオマージュまで、ホックニーの世界の広がりを体感できる。展示全体には「春を取り戻そう(Do remember they can’t cancel the spring)」というテーマが貫かれ、観る者の心を解き放つ。

建築と作品の融合による圧倒的な没入感


展覧会はフランク・ゲーリー設計による建物全体を舞台に展開され、建築と作品が融合する空間を創出している。最後の展示室では、オペラを題材にしたインスタレーションが540度(360度+天井)の映像と音楽で包み込み、観客は床に座ったり寝転がったりしながら、全身でホックニーの世界を浴びて締めくくることができる。圧倒的な没入感は、訪れた者の記憶に深く刻まれるだろう。

舞台は文化・芸術支援の一環としてLVMHグループと会長により設立された現代美術館


この舞台を実現したFondation Louis-Vuittonは、LVMHグループと会長ベルナール・アルノーが文化・芸術支援の一環として設立し、2014年10月に開館した現代美術館だ。パリ西部、ブローニュの森に広がるジャルダン・ダクライマタシオンの敷地に隣接し、19世紀半ばから市民の憩いの場であったこの地に、21世紀の文化的アイコンを築き上げた。歴史的温室「Palmarium」の跡地を活用し、アートと自然、そして歴史の記憶を現代的に再生している。

訪れる者を非日常へと誘う四季や天候によって表情を変える外観


建築を手がけたのは、カナダ生まれの建築家フランク・ゲーリー。ガラスと金属の曲面パネルで構成された外観は、ブローニュの森を吹き抜ける風や雲をイメージし、12枚の巨大なガラスの帆が船のように中央の「氷山」を包み込む。四季や天候によって表情を変える外観は、周囲の木立や水面を映し込み、訪れる者を非日常へと誘う。
展示を堪能したあと、正面とは反対側の出口を出ると、そのままジャルダン・ダクライマタシオンへと足を延ばせる。ゲート前では、ルイ・ヴィトンのトランクに乗った花の親子像──村上隆による「Flower Parent and Child」──が迎えてくれる。このモニュメントは京都市京セラ美術館でも展示された同作品であり、パリでもまたブランドとアートが紡ぐ物語を象徴している。

アート、建築、歴史、そして遊び心を同時に体験できる複合空間


進むにつれて子どもたちの歓声が聞こえ、LVMHが運営する遊園地の世界へと誘われる。1860年、ナポレオン3世と皇后ウジェニーによって開園したこの庭園は、もとは動植物の「慣化」を目的とした科学施設だったが、時代とともに家族向けの遊園地へと姿を変えた。2017〜2018年の大規模リニューアルではスチームパンク調のアトラクションや統一感のある施設デザインを導入し、季節ごとのイベントも充実。移動式遊園地とは異なる洗練された雰囲気が漂う。
乗り物は子ども向け中心だが、大人も思わず足を止めるほど視覚的に楽しめる。園内からは、森越しにガラスの帆を広げた財団の建物が見え、19世紀の憩いの場と21世紀の文化施設が一枚の風景に収まる。カフェテラスでゆったりと過ごすもよし、家族で賑やかに楽しむもよし。森の中のこの複合空間は、アート、建築、歴史、そして遊び心を同時に体験できる稀有な場所だ。

パリ中心部からわずか数キロ、森を抜けた先に突如現れるガラスの帆を目にした瞬間、すでにその魅力の虜になっているはずだ。いまだけのルイ・ヴィトンとホックニーのパリを、ぜひこの地で体感したい。

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1860年から続くグラン・カルーセルは、もともと騎士のための馬上競技を起源とし、やがて子どもたちの夢を乗せて回る華やかな回転木馬へと進化した。リュクサンブール宮殿の庭で催された王族行事にも通じる優雅な装飾と、ライオンやペガサス、熱気球など多彩な乗り物が特徴で、現代ではジャルダン・ダクリマタシオンの象徴的存在となっている。

David Hockney 25

会期:開催中〜 8月31日(日)
会場:Fondation Louis Vuitton
住所:8 Avenue du Mahatma Gandhi, Bois de Boulogne, 75116 Paris, France
開館時間:月・水・木 11:00〜20:00/金 11:00〜21:00/土・日 9:00〜21:00
休館日:火曜
入場料:一般 22€(事前予約推奨)
公式サイト:jardindacclimatation.fr

Jardin d’Acclimatation(ジャルダン・ダクライマタシオン)

住所:Bois de Boulogne, 75116 Paris, France
開園時間:10:00〜19:00(季節により変動あり)
休園日:無休
入園料:大人・子ども共通 7€(アトラクション利用は別途チケット制)
公式サイト:jardindacclimatation.fr

櫻井朋成

写真家。フォトライター

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

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