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森アーツセンターギャラリーにて「キース・ヘリング展 アートをストリートへ」開催中


明るくポップなイメージで世界中で愛されているキース・ヘリングの作品。ヘリングは「アートはみんなのために」という信念のもと、1980年代のニューヨークを中心に地下鉄駅構内やストリート、つまり日常にアートを拡散させることで、混沌とする社会への強いメッセージを発信し、人類の未来の希望をこどもたちに託しました。ヘリングが駆け抜けた31年間の生涯のうちアーティストとしての活動期間は10年ほどですが、残された作品に込められたメッセージは今なお世界中の人々の心に響き続けています。
本展は、6メートルに及ぶ大型作品を含む約150点の作品を通してヘリングのアートを体感できる貴重な機会です。社会に潜む暴力や不平等、HIV・エイズに対する偏見と支援不足に対して、最期までアートで闘い続けたヘリングのアートは、時空を超えて現代社会を生きる人々の心を揺さぶることでしょう。

ニューヨーク市営地下鉄にて 1982-83年 Photo by ©Makoto Murata

第1章:Art in Transit 公共のアート

《無題(サブウェイ・ドローイング)》1981-83年
中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation

1978年、ペンシルベニア州ピッツバーグからニューヨークに移り、スクール・オブ・ビジュアル・アーツに入学。そこでヘリングは、絵画だけでなく映像やインスタレーションなど多様な美術表現を学びながら、美術館や画廊といった従来の展示空間から公共空間でアートを展開する方法を模索しました。中でも、人種や階級、性別、職業に関係なく最も多くの人が利用する地下鉄に注目。「ここに描けばあらゆる人が自分の作品を見てくれる」と、地下鉄駅構内の空いている広告板に貼られた黒い紙にチョークでドローイングをし、そのシンプルに素早く描かれた光り輝く赤ん坊、吠える犬、光線を出す宇宙船は多くのニューヨーカーの心と記憶に入り込みました。

2章:Life and Labyrinth 生と迷路

《無題》1983年
中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation

HIVの蔓延は社会に暗い影を落としはじめていましたが、ペンシルベニア州ピッツバーグの田舎から出てきたヘリングにとって、ニューヨークはゲイカルチャーが最も華やいでいる刺激的な場所でした。混沌と希望に溢れるこの街で解放されたヘリングは、生の喜びと死への恐怖を背負い、約10年間という限られた時間に自らのエネルギーを注ぎ込んでいきます。ジャン・デュビュッフェ、ピエール・アレシンスキー、ウィリアム・バロウズ、そしてアーティストの独立性を主張したロバート・ヘンライのマニフェスト『アート・スピリット』に影響を受け、独自の表現を推し進める中で、アフリカの芸術から着想を得た表現なども確立していきます。

3章:Pop Art and Culture ポップアートとカルチャー

『スウィート・サタデー・ナイト』のための舞台セット 1985年
中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation

米国経済不況下の80年代ニューヨークは、現在以上に犯罪が多発する都市として知られており、ドラッグや暴力、貧困が蔓延していました。それでもクラブ・シーンは盛り上がり、ストリートアートが隆盛を極めるなど、街もカルチャーも人々もパワーに溢れていました。アンディ・ウォーホルやマドンナ、そしてバスキアの作品もそのような状況下から誕生しています。作家のウィリアム・S・バロウズも詩人で評論家のアレン・ギンズバーグも、トップモデルも著名人もミュージシャンも、みんなクラブに通っており、若いアーティストは画廊やシアター以外の場所で才能を試すことに必死でした。特にパラダイス・ガラージは人種のるつぼで、ダンスも、DJの神様といわれたラリー・レヴァンのプレイも、ヘリングにとって最高のクラブであり、踊りと音楽に酔いしれるだけではなく、創作のアイデアが湧き出る神聖な場所でもありました。そのように文化が混ざり合う時代の中で、ヘリングはポップアートだけでなく、舞台芸術や広告、音楽などと関わりながら制作の場を広げていくことになります。

4章:Art Activism アート・アクティビズム

楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を 読もう! 1988年
中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation

キース・ヘリングは大衆にダイレクトにメッセージを伝えるため、ポスターという媒体を使いました。題材は核放棄、反アパルトヘイト、HIV・エイズ予防や、性的マイノリティのカミングアウトを祝福する「ナショナル・カミングアウト・デー」などの社会的なものから、アブソルート・ウォッカやスウォッチなどとのコラボレーション広告といった商業的なものまで、100点以上にも及びます。中でも、社会へのメッセージを発信したポスターは数多く、ヘリングが初めて制作したポスターは、1982年に自費で2万部を印刷した核放棄のためのポスターで、セントラル・パークで行われた核兵器と軍拡競争に反対する大規模デモで無料配布されました。アートの力は人の心を動かし世界を平和にできるものだと信じていたヘリングは、ポスターだけでなく子どもたちとのワークショップや壁画など多くの媒体を使ってメッセージを送り続けました。

5章:Art is for Everybody アートはみんなのために

アートを富裕層にだけではなく大衆に届けたいと考えたヘリングは、ストリートや地下鉄での活動に始まり、自身がデザインした商品を販売するポップショップといったアート活動を通して彼らとのコミュニケーションを可能にしてきました。本章のメインとなる《赤と青の物語》は、絵画の連なりから1つのストーリーを想像する、子どもたちだけでなく大人にも訴えかける視覚言語が用いられた代表的な作品です。また、赤、黄、青といった原色を使い、平面の形を立体に立ち上げた彫刻作品はシンプルで万人とコミュニケーションできるアートといえます。ヘリングは彫刻や壁画などを世界の都市数十ヶ所でパブリックアートとして制作しています。そのほとんどが子どもたちのための慈善活動でした。数々の絵本が出版され、今でも親しまれているなど、ヘリングが発信したアートは大衆に届けられ続けています。

6章:Present to Future 現在から未来へ

《イコンズ》1990年
中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation

17点による《ブループリント・ドローイング》は「ニューヨークでのはじまりを啓示するタイムカプセル」だとヘリングはテキストに残しています。一点一点には解説は付けられていませんが、資本主義に翻弄され不平等さや争いがはびこる社会や、テクノロジーが人間を支配するような未来がモノクロームでコミックのように淡々と描写されています。ヘリングの多くの作品同様、ここでも鑑賞者が作品と向き合い、個々の現実に照らし合わせ、意味を考えることを作品が促しているのです。最後の個展に出品された大作《無題》も、《イコンズ》に描かれた世界中で愛されている光り輝く赤ん坊、通称ラディアント・ベイビーも、鑑賞する人の数だけ意味が生まれていきます。現在を未来として描き、未来を現在として描いたヘリングの思いは、没後30年以上経った今でも歴史と共に巡っています。

Photo by ©Makoto Murata
Keith Haring Artwork @Keith Haring Foundation

「キース・へリング展 アートをストリートへ」東京会場
会期:2023年12月9日(土)〜2024年2月25日(日) 会期中無休
開館時間:10:00〜19:00、金曜日と土曜日は20:00まで
年末年始(12月31日〜1月3日)は11:00〜18:00
※最終入館は閉館の30分前まで
会場:森アーツセンターギャラリー
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
料金:一般、大学生・専門学校生 2,200円/中高生 1,700円/小学生 700円
※事前予約制(日時指定券)
<巡回情報>
神戸会場:2024年4月27日(土)~6月23日(日)兵庫県立美術館 ギャラリー棟3階ギャラリー
福岡会場:2024年7月13日(土)~9月8日(日)福岡市美術館
名古屋会場:2024年9月〜11月(予定)
静岡会場:2024年11月〜2025年1月(予定)
水戸会場:2025年2月〜4月(予定)

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