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色彩が表現する生きる喜び ― 20年ぶりとなる大規模なマティス展が開催中。

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20 世紀美術を代表するフランスの巨匠、アンリ・マティス(1869-1954年)の展覧会が東京都美術館(上野公園)で開催されている。会期は2023年8月20日まで。日本では約20年ぶりの大規模回顧展で、世界最大のマティス・コレクションを所蔵するポンピドゥー・センターの全面的な協力を得て実現した。

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アンリ・マティスの人生を辿り、若き日から晩年までの代表作を堪能

20世紀におけるモダン・アートの誕生に決定的な役割を果たしたフランスの巨匠、マティス。純粋な色彩による絵画様式であるフォーヴィスム(野獣派)を生みだし、84歳で亡くなるまで、感覚に訴えかける鮮やかな色彩と光の探求に人生を捧げた。彼が残した作品は今なお私たちを魅了し、後世の芸術家たちにも大きな影響を与え続けている。

展覧会には、若き日の作品から晩年の大作まで約150点が集結。絵画のみならず、彫刻やドローイング、版画、切り紙絵まで網羅している。そして、晩年の最大の傑作であり、マティス自身がその生涯の創作の集大成と見なした南仏ヴァンスの《ロザリオ礼拝堂》に関する資料や映像も紹介されている。巨匠マティスの芸術家としての人生を辿りながら、各時代の代表的な作品を多角的に堪能できる、またとない機会だ。

絵画への目覚めからフォーヴィスムへ

1869年、織物の産地で知られる北仏ル・カトー・カンブレジに生まれたマティスは、父親の意向でパリに出て法律を学び、故郷で法律家の見習いとして働いていた。しかしある時、病に伏して母親から暇つぶしに絵を描くことを勧められると、途端に興味を示し、傾倒していく。のちに「天国のようなものを発見した」と語ったマティスは、画家への転向を決意。父親の失望を振り切って、再びパリを目指すこととなる。

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アンリ・マティス(1922年、マン・レイ撮影) © Man Ray Trust / Adagp, Paris
Photo © Centre Pompidou, MNAMCCI/Dist.RMN-GP

アカデミー・ジュリアンで学んだ後、ギュスターヴ・モローのアトリエに入り研鑽を積んだマティスは、念願のエコール・デ・ボザール(パリ国立美術大学)に入学。主に静物画や風景画を描き、古典的な様式に倣った基礎的な技術を磨いた。本展のはじめに展示されている《読書する女性》は、マティスがエコール・デ・ボザールへの入学が認められた年に描かれたもので、当時の国家が買い上げた若き日の代表作だ。

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《読書する女性》 1895年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

画風に大きな変化が訪れたのは、新印象派の中心人物だったポール・シャニックの招きでサントロペを訪れ、ひと夏を過ごしたあとのこと。日本初公開となる作品《豪奢、静寂、逸楽》では、当時新印象派の作家たちが展開していた「筆触分割(絵の具を混ぜずに、異なる純粋色を小さな筆のタッチで置いていく描き方)」の手法が用いられ、ルネサンス以来の伝統だった写実主義からの決別を表明した。光溢れる理想郷を描いたかのようなこの作品は、目に映る色ではなく心が感じる色彩に満ち、この新たな境地がのちにマティスの代名詞となる「フォーヴィスム(野獣派)」に結実していく。それは芸術家の主観的な感覚を重視し、感情や心の動きを色彩で表現しようとするもので、造形から離れた明るく強烈な色彩は生命力に溢れ、のびやかな雰囲気を醸成していった。

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《豪奢、静寂、逸楽》1904年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

二つの大戦を経て

しかし1910年代に入ると、第一次世界大戦が勃発してマティスの作風にも影響を及ぼす。二人の息子や友人たちが徴兵され、一人パリに残されたマティスは内省へと向かう。同展では、アトリエと窓というモチーフによって内と外が融合する絵画空間を成立させようと試みた作品や、同時期にキュビズムの影響のもと、造形の抽象化を試みた人物画が紹介されている。

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《金魚鉢のある室内》 1914年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

その後1917年から30年頃にかけては、制作の場を南フランスのニースに移す。この時期、主要なテーマとなるオダリスクをはじめ、開放的な作品が制作された。

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《赤いキュロットのオダリスク》 1921年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

第二次世界大戦中は、空爆を逃れるためにニースからヴァンスへ。高齢と病のため寝たきりになっても、マティスの創作意欲は衰えることがなかった。数多くのドローイングや本の挿絵の制作などに没頭し、色彩に満ちた「ヴァンス室内画」シリーズと呼ばれる油絵連作にも挑んだ。同シリーズを締めくくる《赤の大きな室内》は、マティスが描いた最後のオイルペインティングとなり、色彩を探求し続けた仕事のひとつの完成形ともなった。

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《赤の大きな室内》 1948年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

さらに純化していく最晩年の作品

一方、線の単純化、色彩の純化を追求したマティスは、晩年、絵筆が取れなくなると紙とハサミを使った切り紙絵の創作に精力的に取り組んだ。自由に構成できる切り紙絵は、「フォーヴィスム」と同様にマティスを語る上で重要なものとなった。画文集《Jazz》や、《ダンス》のような壁画の仕事、また最晩年に手がけて、自身も集大成と謳ったヴァンスの《ロザリオ礼拝堂》のステンドグラスの下絵も、切り紙絵でつくられた。

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《イカロス(版画シリーズ〈ジャズ〉より)》  1947年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

同展で上映されている《ロザリオ礼拝堂》の撮り下ろし映像は必見。映像が捉えるのは礼拝堂内の一日で、青、黄、緑のステンドグラスを通る日の光が、白い礼拝堂の空間を染め上げる。早朝から夕刻にかけて刻々と移り変わる光につれて、色彩が室内を動く様子は生命そのもののよう。それはあたかも、生涯をかけて純粋な色彩とカタチを探求し、生きる喜びを表現し続けたマティスの想いを投影しているかのようで、人生で一度は、この礼拝堂を訪れてみたいと思わずにはいられないだろう。

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ロザリオ礼拝堂 堂内 ©NHK

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ロザリオ礼拝堂 堂内 ©NHK

「色彩の魔術師」と称されるマティスの輝かしい作品を、これほどの規模で網羅する展覧会は今後しばらくないのでは。今こそ20世紀の巨匠が残した作品群を前に、伝統的な枠組みから抜け出し飛翔する精神と、湧き上がる生命の力を感じてみてほしい。

『マティス展』
開催場所:東京都美術館
開催期間:2023年8月20日(日)まで開室時間:9:30~17:30
※金曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
休室日:月曜日、7月18日(火)
※7月17日(月・祝)、 8月14日(月)は開室
※チケットの購入及び入場方法は、最新情報を公式サイトでご確認ください。
https://matisse2023.exhibit.jp/

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