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ウィーンが生んだ夭折の芸術家「エゴン・シーレ」の大規模展開催

egon schiele

エゴン・シーレは、1900年代初期にウィーンで活躍した芸術家です。「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」は、エゴン・シーレ作品の世界有数のコレクションで知られるウィーンのレオポルド美術館の所蔵作品を中心 に、シーレの油彩画、ドローイングなど合わせて50点を通して、シーレの人生や創作背景を追体験できる日本では30年ぶりとなる展覧会です。加えて、クリムト、 ココシュカ、ゲルストルをはじめとする同時代作家たちの作品も合わせた約120点を紹介。夭折の天才 エゴン・シーレをめぐるウィーン世紀末美術を展観する大規模展となっています。

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波乱に満ちた28年という短すぎる生涯

エゴン・シーレは、1890年にオーストリアで生を受け、16歳という学年最年少の特別枠で、ウィーン美術アカデミーへ入学。17歳の時にグスタフ・クリムトと出会い「僕には才能がありますか?」と問うと、クリムトは「才能がある? それどころかありすぎる」と応えたという。その後仲間たちと「新芸術家集団」を立ち上げ、ウィーン美術アカデミーの保守的な教育に満足せず卒業を待たずに退学します。

20歳ごろから独自の表現主義的な画風を確立し、多くの自画像を描くように。自宅にヌードモデルが出入りしたことから、地元住民の反感を買い移住を余儀なくされたり、人々の目に付く場所にわいせつ画を掲示したとして有罪になり、3日間収監されるなど、その生涯は波乱に満ちたものでした。1913年には初の個展をドイツで開催し、ローマ、ブリュッセル、パリなどヨーロッパ各地の展覧会で作品が紹介されるようになります。長年、ワリー・ノイツェルと交際していましたが別離し、1915年にエーディト・ハームスと結婚。第一次世界大戦に招集されますが、前線に送られることはなく、創作活動を続けることが許可さ、戦時下でも作品を発表し続けたことにより、国際的に評価が高まり「第49回分離派展」では、多くの作品が購入され大きな成功を収めます。しかし、流行していたスペイン風邪に夫婦で感染し、妻エーディトが亡くなった3日後にシーレも28歳という若さでこの世を去るのです。

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《エゴン・シーレの肖像写真》アントン・ヨーゼフ・トルチカ 1914年
レオポルド家コレクション Leopold Museum, Vienna

初期作品からも溢れ出る才能

エゴン・シーレは、当時の常識にとらわれない創作活動が人々の理解を得られず逮捕されるなど、孤独と苦悩を抱えながら、ナイーヴな感受性をもって自己を深く洞察し、時に暴力的なまでの表現で人間の内面や性を生々しく描き出しました。表現性豊かな線描と不安定なフォルム、鮮烈な色彩は、自分は何者なのかを問い続けた画家の葛藤にも重なるといえるでしょう。

シーレは1906年にウィーン美術アカデミーに入学するも、保守的な教育に不満を抱いていました。その頃、当時のウィーン美術界の中心人物だったグスタフ・クリムトと個人的に知り合い多大な影響を受けます。《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》にもそれはよくあらわれており、正方形のカンヴァスや背景に金や銀を用いる手法は、明らかにクリムトの影響を受けており、絵画の装飾性、平面性を高める役割を果たしています。中心に据えられた花と葉もまた大胆な色面で表され、シーレののちの作風を予見しているといえます。

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《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》エゴン・シーレ 1908年
レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

シーレの自画像のなかで、もっともよく知られた作品である《ほおずきの実のある自画像》。クローズアップで描かれた画家は、頭部を傾け、鑑賞者に視線を向けています。シーレのまなざしは挑発的にも、いぶかしげにも、あるいは何かに怯えているようにも見え、青白い顔には、赤、青、緑の絵具がまるで血管のように、すばやい筆致で施されています。本作の緊張感は、高さの不揃いな人物の肩と、ほおずきの蔦がおりなす構図からも生み出されています。生涯にわたり自画像を描き続けたシーレ。世紀末のウィーンという多様な価値観が交錯し対立する世界に生きながら、自画像を通して自己のアイデンティティーを模索し続けていたのでしょう。

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《ほおずきの実のある自画像》エゴン・シーレ 1912年
レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

伝統的な裸婦像は立っているか、横たわるポーズをとっていることが大半ですが、シーレの裸婦の多くはカラダを極端にひねったり、うずくまったり、膝を抱え込んだりと、伝統からいちじるしく逸脱し、バラエティに富んでいます。《頭を下げてひざまずく女性》では、女性がひざまずいた状態から突然、前かがみになった瞬間がとらえられているようで、ふわりと膨らんだスリップと顕になった太ももは、シーレらしいエロティックな演出であるとともに、画中に躍動感をもたらす要素となっています。

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《頭を下げてひざまずく女性》エゴン・シーレ 1915年
レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

世紀末ウィーン美術の殿堂からやってきた名作たち

グスタフ・クリムトはウィーン世紀末美術のもっとも重要な画家ですが、保守的なウィーン画壇に対抗すべく、ウィーン分離派を創設。官能的な女性像や、建築や工芸といったジャンルを超えた表現を通して、新しく自由な芸術を模索し続けました。1907年頃にシーレと知り合い、彼を理解し自身のコレクターに紹介したという。1908年から1909年頃のシーレの作品には、正方形のカンヴァスや背景の装飾的な表現など、クリムトからの影響がみてとれます。

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《シェーンブルン庭園風景》グスタフ・クリムト 1916年
レオポルド美術館に寄託(個人蔵) Leopold Museum, Vienna

本展で展示される作品の多くを収蔵するレオポルド美術館は、クリムトなどの世紀末ウィーンの作品など、19世紀後半から20世紀のオーストリア美術を約6000点所蔵する美術館。世界最大を誇るエゴン・シーレコレクションは220点以上にのぼり、「シーレの殿堂」として知られています。オーストリア現代美術を代表する数百点の名作は、熱烈な美術愛好家のルドルフ&エリザベス・レオポルド夫妻が収集したものです。彼らはこれら世紀末ウィーンの作品が現代ほど評価されていなかった1950年代から蒐集をはじめ、その大部分を財団に寄付し、今ではレオポルド美術館に展示されています。本展はそのレオポルド美術館が所蔵する作品を日本で見られる貴重な機会となっています。

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© Leopold Museum, Vienna, Ouriel Morgensztern

『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』
会期:2023年1月26日[木]─ 4月9日[日]※日時指定予約制
開室時間:9:30-17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)休室日:月曜日
会場:東京都美術館(東京・上野公園)
公式サイト https://www.egonschiele2023.jp
お問い合わせ 050-5541-8600 (ハローダイヤル、9:00-20:00)

 

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