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リシャール・ミルが2002年から、メインパートナーとオフィシャル・タイムキーパーを務めてきた伝統あるル・マン クラシックに捧げる限定モデルが発表されました。今回はこのル・マン クラシックにも取材へ行かれたことがある「IMPRESSION GOLD」誌、エールフランス「BON VOYAGE」誌など企業誌編集長を歴任され、新聞や雑誌等に寄稿されている二村好昭さんと、リシャール・ミルのアフターサービスを担当する時計技術者・竹中茂喜さんに、解説していただきました。
Photo Antonin Vincent / DPPI
世界一過酷で栄光ある、モータースポーツのメインステージ
ル・マンは、フランス・パリの南西およそ200kmに位置する、ロワール地方の古都。同地方で活動していたフランス西部自動車クラブにより、1923年、前代未聞の24時間自動車耐久レースがここで始まった。その目的は単なる競争に終わらず、タイヤや照明、燃料など、自動車工学全体の向上促進もあった。喩えるなら「走る実験室」として、ル・マン24時間レースは歴史を重ねていく。やがてはF1モナコ・グランプリ、米インディ500とともに世界三大レースに数えられ、再来年には開催100周年を迎える。
24時間レースが行われる、通称“ル・マン サルト サーキット”は、実は完全なクローズド・サーキットではない。全コースのうち1/3は、普段2輪レースが行われるクローズドの“ブガッティ・サーキット”。それ以外の2/3は、周囲の一般道を1年のうちレースの数日だけ閉鎖し、それをつなげて全長13km超という、かなりのロングコースに仕立てられる。公道部分は農道であり、当然だが狭くて荒れている。そこをレーシングカーがスロットル全開で駆け抜けるのだからすさまじい限りだ。ユノディエールと呼ばれる有名なストレートがあるが、かつてはシケインなしに延々6kmという長さの直線が続いていた。そこでプジョーは、時速400kmを超える記録を打ち出している。これは音速より速い。現在は安全を考慮し、シケインが2カ所設けられ、レースカーは減速させられる。
毎年、ル・マン24時間レースは夏至に近い土曜の15時にスタートし、翌日曜の15時にチェッカーフラッグが振られる(2020年からは開催時期、スタート時間変更)。初夏のフランスの夜は短く、僅か4、5時間で空けてしまうが、レースは闇の時間も休むことはない。サーキットには遊園地が併設され、メリーゴーランドの灯りが夜に花を添える。音楽の生演奏が響き、シャンパンが抜かれ、人々はサーキットで夏の幕開けを喜び合う。そんなル・マンを愛する精神が、2002年、もうひとつの夢のかたちとして華開いた。かつて世界中の少年たちが胸躍らせたレーシングカーへの憧れや伝説が、同じル・マンという大舞台で再び、甦ったのだ。それが世界から13万5000人ものモーターファンが押し寄せるヒストリックカーの祭典、ル・マン クラシックである。
700台のレジェンドカーが集結。圧倒的なスケールのヒストリックカー・レース
今日、ヒストリックカーのイベントは世界各地で開催されているが、そのスケール、車種の稀少性、さらには優雅さにおいても、ル・マン クラシックの右に出る催しはないだろう。ル・マン クラシックは単なるファンミーティングやエレガンスコンクールではなく、世界にその名を轟かすル・マンの本コースで、ヒストリックカーがスピードを競い合う真剣レースなのだ。参加資格は、かつてのル・マン24時間耐久レースに参戦した同車種のレーシングカー。戦前の葉巻型マシンにはじまり、総勢約700台という数の伝説的な名車たちが、本戦と同様、24時間後のゴールを競う。しかし、さすがにこの台数のクラシックカー全てが24時間連続でコースインしているわけにはいかず、ル・マン クラシックでは年代ごと6つのカテゴリーに分かれて、40分間ごと順番に入れ替わり予選、本戦を戦う。1台数億円という歴史的なマシンも珍しくなく、中には映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックィーンが運転した、ガルフブルーのポルシェ917Kまで登場。フェラーリ250LM、コブラ・デイトナクーペ、ジャガーDタイプ、ポルシェ935ターボ……。世界のレース史に名を馳せる名車たちが、タイヤが焼ける匂いを立ち上らせて、コーナーを抜ける。
Photo Antonin Vincent / DPPI
目を見張るのは、参戦車ばかりではない。ル・マン クラシックには各国から180におよぶヒストリックカークラブの面々が応援に駆けつける。広いパーキングではマクラーレン、ブガッティ、ベントレーといった稀少車が、メーカークラブごとにずらりと隊列を成している。まさしく桁外れのイベントなのだ。
そして2002年の第1回目開催より、ル・マン クラシックのメインパートナー兼公式タイムキーパーを果たしてきたのが、リシャール ミルだ。ブランドを統率するリシャール・ミル氏自身、プロドライバーレベルの腕前を持つことで有名。ここル・マンでもローラT70などのステアリングを握り、本気モードで参戦してきた。
ル・マン クラシックは隔年開催であり、前回の2018年では元F1ワールドチャンピオンのジェンソン・バトン氏が、グループCのカテゴリーで母国の名車1988年製ジャガーXJR-9を駆って出場。Cカー特有の切り裂くような高音を空に轟かせ、時速300kmで駆け抜けた。
ル・マン24時間レースの100年にも思いを馳せ、「RM 029 オートマティック ル・マン クラシック」が150本限定で誕生
昨年、2020年は新型コロナウイルスの世界的な影響で、ル・マン クラシックは残念ながら延期となった。そして今年も同理由により開催ならず。しかしリシャール ミルは、世界のヒストリック・モータースポーツの頂点にあるイベント、ル・マン クラシックの意義と価値を讃え続けていくためにも、今年、8作目となるコラボレーションモデル「RM 029 オートマティック ル・マン クラシック」を発表、世界150本限定で発売した。
ル・マン クラシックのシンボルカラーといえば、グリーン、ホワイト、そしてブラック。これまでもリシャール・ミルはコラボモデルに関して同様のカラーリングを採用してきたが、今回の新作はこれまでになく大胆かつ印象的にこのカラーリングを表現した。フロントケースとケースバックは目の醒めるようなグリーンクオーツTPT®で製造。
その製法はリシャール・ミルの愛好家であればお馴染みだろうが、これは数百枚におよぶ30ミクロン以下という極薄のシリカ繊維を、各階層で横糸の方向をずらしながら積み重ねて焼成圧着し、独特の質感を表現したもの。航空機製造に使用される高圧窯で120℃まで加熱すると、カーボンTPT®の多くの層がランダムに露出し、成形表面に一つひとつ異なるダマスカス模様が表れる。つまり時計ケースは一つとして同じものはなく、全ての時計がユニークピースに仕上げられる。さらに「RM 029 オートマティック ル・マン クラシック」は、フロントケースにホワイトクオーツTPT®で製造したダブルストライプを嵌めこみ、モータースポーツの世界観をダイナミックに表現した。異なるカーボンTPT®を組み合わせ、ケースとして一体化させた手法は、リシャール・ミルで初めての試みだ。そしてダブルストライプのホワイトに合わせ、ラバー製のホワイトベントストラップを採用した。
メカニズムも見ていこう。ダイアルはスケルトナイズされ、その内部には剛性感に優れたグレード5チタン製の自動巻きムーブメント、キャリバーRMAS7が搭載されている。装着者の運動量に合わせて最適な巻き上げ効率を実現する可変慣性モーメントローターを備え、二重香箱システムで約55時間にわたって安定した動力トルクを達成する。一方、表示機能に関しては、スケルトンダイアルの2時位置に24時間表示のインダイアルを配する。いうまでもなく、そこにはル・マン24時間レースへのオマージュが込められている。加えて4時位置にはオーバーサイズのデイト表示を搭載。そして7時位置にル・マン クラシックの公式シンボルマークをレイアウトする。リューズガードなど、随所にオレンジを効かせたデザインも、いかにもスポーティーだ。ケースサイズは40.10×48.15×13.10㎜。
世界に類のないヒストリックカー・レースの祭典、ル・マン クラシック。来年2022年は開催が予定され、そればかりでなく、ル・マン24時間レースの100周年にあたる2023年にも連続開催が決まった。ヒストリックカーイベントは決してノスタルジーではない。それは貴重な自動車文化を未来の世代へ継承するという、ロマンに溢れた行いなのである。
文/二村好昭(にむら・よしあき)
株式会社オフィス・インターフェイス代表取締役。アメリカン・エキスプレス「IMPRESSION GOLD」誌、エールフランス「BON VOYAGE」誌、コンチネンタル航空「CONTINENTAL PACIFIC」誌などの企業誌編集長を歴任。また大手新聞、雑誌の記事制作を長く手がける。旅と機械式時計とヒストリックカーと酒好き。
リシャール・ミル アフターサービス 時計技術者がみるココに注目!
残念ながら昨年に引き続き今年も開催が中止されてしまったル・マン クラシックですが、ル・マン クラシックモデルの限定モデルが発表されたことは嬉しいニュースですね。
さて、今回の注目ポイントはグリーンクオーツTPT ®のベゼルに施された2本のホワイトラインと、2時位置の24時間表示です。このモデルには、2種類のクオーツTPT ®を使用しています。鮮やかなグリーンクオーツTPT®製ベゼルの12時、6時位置にホワイトクオーツTPT®の2本のラインが入っており、このモデルのスポーティさを強調しています。別々に作って加工したであろうクオーツTPT®の素材を寄せ木細工のように組み合わせていますが、継ぎ目があるようには見えないのもリシャール・ミルらしいこだわりです。もちろん、強度も維持しています。
そして、2時位置の24時間表示にもこだわりが満載です。この1つの24時間表示機能で3つの時間を読み取ることができるのです。
まず1つ目。24時間で一周する内側ディスクの水色▲を外側の文字盤の目盛りに合わせると24時間の時刻を確認することができます。これは一般的な24時間表示です。残り2つがル・マンモデルならではのこだわりです。ここでポイントとなるのが、ル・マン クラシックのスタート時間が16時であるということです。
2つ目は、外側の文字盤 24時のオレンジ色▼マークと内側ディスクの目盛りを読み取るとレース終了までの残り時間が確認できます。
そして3つ目。内側ディスクの24時のオレンジ色▲マークに対応する外側の文字盤の目盛りを読み取るとレース開始からの経過時間が確認できるのです。
7時位置のル・マン クラシックのロゴだけでも十分、ル・マン クラシック モデルと言えると思いますが、それだけではないプラスαの機能やデザインが盛り込まれた、リシャール・ミルのル・マン クラシックに対する敬意が詰まった作品ですね。
文/竹中茂喜(たけなか・しげき)
時計修理技能士1級を持つリシャールミルジャパン テクニカルマイスター。年に数回スイス、レ・ブルルーにある工房でトレーニングを受けリシャール・ミルを熟知するひとり。
「RM 029 オートマティック ル・マン クラシック」
自動巻き(キャリバーRMAS7)、時・分・秒表示、オーバーサイズデイト表示、2時位置に24時間カウンター表示、パワーリザーブ約55時間、ホワイトクオーツTPT®×グリーンクオーツTPT®ベゼル、ホワイトクオーツTPT®ミドルケース、ケースサイズ:48.15×40.10×13.10mm、50m防水、可変慣性モーメントローター、ラバーストラップ、50本限定、¥21,670,000(税込)
問い合わせ先:リシャールミルジャパン
TEL.03-5511-1555
https://www.richardmille.com/ja