V12フロントエンジンの10台目となる「フェラーリ オモロガータ」
レースの世界で常にトップに君臨し、世界を魅了し続ける唯一無二のブランドが、上がり切ったハードルを優に越え、車好きならば誰もが手にしたいと思う傑作をイタリア・マラネッロにて、短時間ながらも激しい試運転をさせ、爽やかな風音を奏でた。ユニークさを携えた美しいボディのフェラーリは、世界中からの熱視線を浴びながら、あのフィオラーノ・サーキットを堂々たる姿で周回した。V12プラットフォームをもとにつくられた10台目にして待望のワンオフ・モデル「フェラーリ・オモロガータ」のワールドプレミアだ。
サーキットに響き渡るおなじみの心地よいV12エンジン音のほか、このマシンの注目に値する外観は他に類を見ず、フェラーリ・ファンに強烈にその存在感を訴えかけてくる。公道でも走れるとあらばなおさらのことだ。
ロッソ・マグマの美しいボディに800馬力で世界屈指の性能を持つワンオフ
ひと目に分かる洗練されたレーシーな風貌をまとい、ロッソ・マグマで仕上げられた新しいフェラーリ・オモロガータは、70年の歴史をもつフェラーリの偉大なGTの伝統を色濃く受け継いでいる。スタンダードなV8エンジンではなく、812スーパーファストと同じく、6.5リットルのV型12気筒ガソリン自然吸気エンジンを、フロントミッドシップに搭載する。最大出力は800ps/8500rpm、最大トルクは73.2kgm/7000rpmを引き出す。0~100km/h加速は2.9秒、最高速は340km/h以上と、世界屈指の性能を備えている。
目の肥えたヨーロッパの顧客に依頼され、コーチビルダーによってつくられるフェラーリのたった1台だけのワンオフ・モデル・ラインのこの最新作は、GTレーシングに関するフェラーリの価値観を強烈に思い起こさせる。
2年を費やし完成した時代を超えたエアロダイナミクスシェイプの流線形デザイン
この世にまだ見ぬ世界に一台だけのフェラーリを生み出すためには、様々なプラダクトからのインスピレーションに着想を得ている。誕生物語は、一枚のスケッチからスタートし、完成までに2年あまりの歳月をかけた。偉大なレーシングの伝統から紐解き、SFや現代建築に至るまでさまざまなアイデアが、この一台には注ぎ込まれている。きっと時代を追えば、瞬発力のある一過性の美しさに成り下がったに違いないが、時代を超えたシェイプを生み出せるよう、独特な施しに新鮮な解釈を加え、文化として永続的に愛される未来的なデザインを産み落とした。
目標となったのは、強烈なミッド・フロント・レイアウトのプロポーションをいかし、滑らかな立体感と揺れ動く反射を特徴とする、流線形のデザインを生み出すことだった。この差別化が時代の先をゆくデザインとなっているのだが、さらに、エアロダイナミクスを追求し、表面の急激な変化を控えめに昇華させ、鋭い形状よってデザインを高めることで圧倒的な優位性をもたらした。最も困難だったのは、自己主張と抑制の理想的なバランスを取ることだった。オモロガータは、街で存在感を放ちながらも、きわめて純粋なフォーマルスタイルを維持する必要があったからだ。フラットになった楕円形グリルを出発点として、徐々に広がるたっぷりとしたフロントのボリューム感に一切の妥協を許さなかった。フロント・ホイールアーチの上で丸くなった魅力的なセクションは、ボンネットを包み込むストライプによって強調され、まるでグリルから自然に押し出されたように見える。熟練した職人とのタッグで生み出した神業と言えるだろう。ドアの後方、力強いリヤの筋肉が美しく、上方のリヤ・スリークォーター・パネルに溶け込んでおり、リヤ・クォーター・ウインドウを取り払ったことで、リヤ全体のボリュームがことさら堂々としたものになっている。
「オモロガータ」をキーワードとして開発された公道を走れるレーシングカー
フェラーリが生み出してきた10台目となるこのフロント・エンジンV12ワンオフ・モデルの開発作業を通じて交わされるキーワードとなったのは「ホモロゲーション取得済み」を意味する「オモロガータ」という言葉だった。フラヴィオ・マンツォーニ率いる屈指のデザイン・チームが、その卓越した技と経験をもって、レーシングカーのデザインを持ちながらも、公道を走れるまでに落としこんだ市販車を見事に生み出し、認定をクリアした。
専用に開発された3層のロッソ・マグマカラーにラグジュアリーなインテリア
これまでにない究極のタッチを追求した結果、このモデル専用に新しい色調のレッドまでもが開発された。燃えるような3層のロッソ・マグマが暗いカーボン・ファイバー仕上げに組み合わされ一際目を引く。車内、コックピットのディテールは極めて細かく一度乗ってしまえば、虜になってしまうに違いない。フル・ブラックのインテリアがラグジュアリーさを押し上げている。そこを背景に際立つエレクトリック・ブルーのシートは圧巻だ。レザーとJeansAunde®ファブリックを趣味よく組み合わせて仕上げられ、4点式シートベルトが備わっている洗練された作りだ。リヤ・クォーター・ウインドウとサンシェードをあえて取り払うことで、過ぎ去った時代を思い起こさせる深みがある。ダッシュボードとステアリング・ホイールの金属製パーツは、1950年代と1960年代の偉大なGTレーサーやフェラーリのエンジン・カム・カバーと関連のある、ひび焼き塗装効果で仕上げられている。インナードアハンドルや F1 バッジなどには、「250LM」や「250GTO」などに見られるハンマー塗装の加工を用いている。
フェラーリは極めてラグジュアリーな車だが、今回の限定車は、どんな富豪でも手に入れることが難しい値段以上の価値を持つ、世界にたった1台だけの究極の車となった。フェラーリは、こうした開発をもって売ること、乗ること以上に人類を未知の領域へ誘おうとしているかもしれない。購入者はこの資産以上のメリットをなかなか手放しはしないだろう。