ラリックと Saint-Louis、その源流としてのアルザス

写真/文: 櫻井朋成
Photo/text: Tomonari Sakurai

— 炎と森、技術と美意識が交差する土地 —


アルザスは、世界で最も古くクリスマスツリーが立てられた土地のひとつとされている。その枝に吊るされる装飾として生まれたブール・ド・ノエル(ガラスのクリスマスボール)もまた、この地の森と炉から生まれた。光を受けてきらめく小さなガラスの球体が、ヴォージュの森に囲まれたこの地方で生まれたのは、決して偶然ではない。アルザスは、何世紀にもわたってガラスとともに呼吸してきた土地だからだ。

ガラスの生産地としての条件を兼ね揃えていたアルザス


フランスにガラス製造の技術が本格的に伝わるのは、14世紀頃までさかのぼる。ヴェネツィアをはじめとする地中海世界の技術が、修道院や城館を通して内陸へと伝播し、ガラスは宗教空間や都市生活の中へと少しずつ浸透していった。その頃すでに、アルザスからヴォージュ山地一帯には、ガラスに不可欠な条件が揃っていた。珪砂、石灰、アルカリ分を含む鉱物資源。そして何より、ガラスを溶かすために欠かせない膨大な燃料としての森林が、この地方には尽きることなく広がっていた。

実用ガラスの産地として


こうして生まれたのが、森の中に炉を築き、原料と燃料が尽きれば移動する“森林ガラス工房(verreries forestières)”と呼ばれる独特の生産形態である。14世紀後半から15世紀にかけて、ヴォージュの奥深い森には小さな炉が点在し、素朴で緑がかった酒器や保存瓶、薬瓶が作られていった。アルザス周辺はこの時点ですでに、日用品としてのガラスを生み出す実用ガラスの産地として機能し始めていた。

ヨーロッパのガラス技術の中心へと変貌


16世紀から17世紀にかけて、この地のガラスは大きな転機を迎える。アルザスは常にフランス世界とドイツ世界の境界にあり、戦争と領有の変化とともに人と技術が行き交ってきた。とりわけ、ボヘミアやバイエルンなどドイツ圏から流入した高度なガラス職人たちの存在は決定的だった。透明度を高める調合、型吹き、色ガラス、装飾技法、そして切断面の美しさ。こうした最先端の技術が持ち込まれ、アルザスの工房は単なる地方の生産地から、ヨーロッパのガラス技術圏に連なる拠点へと変貌していく。

権威と富を象徴する素材へ


17世紀後半から18世紀に入ると、ガラスはフランス王権のもとで次第に国家的産業として位置づけられるようになる。鏡、装飾器、照明器具といった分野が宮廷文化と結びつき、ガラスは日用品から、権威と富を象徴する素材へと変わっていった。そしてこの流れを決定づけたのが、クリスタルガラスの誕生である。
従来のガラスに鉛を加えることで、屈折率と透明度を飛躍的に高めたクリスタルは、重厚な重量感と鋭い輝きを備え、カットによって光を劇的に反射する素材となった。


ガラスはここで初めて、単なる器ではなく、光そのものを造形する素材へと進化する。この技術的飛躍の象徴となるのが、1781年、東フランスでフランス初の鉛クリスタル製造に成功した Saint-Louis の誕生である。この年は、フランスにおける“近代ガラス元年”とも言うべき画期となった。

構想は都市にあり、炎とガラスの現場は森の中に


19世紀に入ると、産業革命の波がこの地にも及び、アルザス~ロレーヌのガラス産地はさらにその性格を変えていく。機械化と手仕事が交錯するなかで、アルザスは単なる大量生産地ではなく、意匠と技術を両立させる「実制作の中枢」としての地位を確立する。ナンシーを中心としたアール・ヌーヴォーの芸術家たちが描いた装飾意匠は、実際にはヴォージュ山地側の工房で炉にかけられ、形となった。構想は都市にあり、炎とガラスの現場は森の中にあったのである。

隆盛を極めたガラス芸術


20世紀初頭、この地にさらに象徴的な転機が訪れる。自然のモチーフと装飾芸術をガラスに刻み込み、香水瓶、花瓶、照明へとその表現を拡張した一人の装飾芸術家が、アルザスに工場を構えた。ここで隆盛を極めた表現は、やがてフランス装飾芸術を代表する存在となり、同時に、18世紀に確立されたクリスタルの技術は、現在に至るまで最高峰の品質として受け継がれていく。

こうしてアルザスは、原料があり、森があり、炉があり、職人が集まり、王権と結びつき、やがて芸術へと昇華していった、フランスでも稀有な“ガラスの中心地”となった。
マルシェ・ド・ノエルに揺れる一粒のガラスの球。その奥には、中世の森に灯った小さな炎から、クリスタルの輝きへと連なる、長い時間の層が静かに閉じ込められている。
そしてこの土地から、二つの名が決定的な意味を持って結晶する。
ひとつは、フランス最古級のクリスタル工房。
もうひとつは、装飾芸術をガラスに定着させた世界的ブランド。
次回は、その二つの現場を実際に訪ね、アルザスのガラスが今もなお“生きた技術”であり続けている理由を見つめていく。

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若き日のルネ・ラリックは、まずジュエリーからガラスの可能性を切り開いていった。貴金属と宝石だけで構成される伝統的な宝飾から離れ、透明や半透明のガラス、エマイユ、半貴石、角などを組み合わせることで、女性の横顔や植物モチーフを立体的に浮かび上がらせる。ここに見られるブローチも、金属はあくまでラインを支える骨格にとどまり、光を受けて表情を変えるガラスこそが、ジュエリーの主役として据えられている。

櫻井朋成

写真家。フォトライター

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

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