地域の風土、歴史や文化を料理に表現する「ローカル・ガストロノミー」。2023年春、新潟の食の素晴らしさと奥深さを発信するべく、ローカル・ガストロノミーを実践する県内の優れた事業者を表彰する「新潟ガストロノミー アワード」が開催された。世界中の美食を知り尽くすフーディーたちが認めた、新潟の名店を紹介する。
新潟が誇る食文化を国内外に発信
全国有数の米どころであり、その米と清冽な雪解け水を使った地酒があり、山の幸、海の幸にも恵まれた新潟県。まさに日本の美味しい食の宝庫とも言えるこの地で、初となる「新潟ガストロノミー アワード」が開催された。
同イベントは新潟県観光協会を主体に、新潟県南魚沼市の温泉宿「里山十帖」ほか数々の宿泊施設を手掛ける「自遊人」代表の岩佐十良氏が率いる「ローカル・ガストロノミー協会」の協力のもとに実現した「食」の祭典。旅が再び動き始める今のタイミングを逃さず、新潟が日本有数の食文化県であることを広く全国へ、そして世界へアピールした。
特別審査委員長を務めたのは「世界のベストレストラン50」や「アジアベストレストラン50」などのオーガナイズにも携わる、美食評論家でありコラムニストの中村孝則氏。
美食評論家・コラムニストの中村孝則氏
県内外から招集された著名シェフや編集者、文化人をはじめとする有識者による厳正なる審査の結果、「飲食店部門100」、「旅館・ホテル部門30」「特産品部門」の3部門において大賞及び特別賞が選出された。
希少部位を求めて全国から客が集まる鶏料理店
「飲食店部門100」の大賞に選ばれたのは、新潟市に店を構える「my farm to table おにや」。自家養鶏場で手間暇をかけて育てられた地鶏や希少なシャポン(去勢された雄鶏)を使ったメニューが揃う鶏料理店である。
鶏の飼育から調理までを一貫して手掛けるのは、オーナーシェフの鬼嶋大之氏。自らが丹精込めて育てた鶏をさばき、素材の奥深い味わいを引き出すための最適な調理法で提供する。
「my farm to table おにや」のオーナーシェフ 鬼嶋大之氏
特筆すべきは、極めてユニークな提供スタイル。徹底した品質と鮮度管理、卓越した調理技術によって、内臓を含むあらゆる部位が用いられているのだ。名物である鶏の刺身のバリエーションは20種類にも及ぶ。「昨日〆」「今日〆」というように熟成具合の食べ比べができるのも面白いと、フーディーらを驚嘆させている。
丁寧にラベル付けされて供されるバラエティ豊かな鶏刺し
また、シャポンは品よく力強い味わいが特徴で、審査員の一人であり「世界のベストレストラン50」日本支部の事務局長も務める青田泰明氏は「クリーミーでありながらも旨味がある。しかも、それを通年食べられるのは世界でここしかない。世界中のフーディー友達を連れてきて驚かせたい」と絶賛し、太鼓判を押す。
かつて「自分にしかできないことは何か」を模索していたという鬼嶋氏。「もっと美味しい鶏をつくれないだろうか」と考えた末にたどり着いたのが、自身の養鶏場を持つことだった。そして、命の最初から最後までに携わるなか、ほぼすべての部位を余すところなく食す今の形が確立されていったという。
今回のアワードでも、料理の独自性や素材のトレーサビリティ、哲学性など、この店でしか体験できない独自の世界観が高く評価された。
「ローカリゼーションをすごく大切になさっていて、地域と一緒に自分がもっと盛り上げていくという、その意気込みも含めて大賞に相応しいと思いました」と言葉を繋ぐ青田氏。
「my farm to table おにや」は「まだ出合ったことがない料理を食べたい」という人間の欲求を見事に満たしてくれる店である。
評価した青田氏が薦めるのは、臨場感あふれるカウンター席。目の前で調理してくれるライブ感を楽しみながら、店主の丁寧な説明に耳を傾ければ、一品一品に込められた熱い想いが垣間見られるはずだ。新潟市内にありアクセスも至便なので、予約が取れなくなる前にぜひ訪れてみて欲しい。
ホテル部門大賞受賞。野遊びの幸せを五感で感じるスノーピーク初の温浴リゾート
「旅館・ホテル部門30」の大賞に選ばれたのは、2022年4月に三条市に誕生した「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」。アウトドアブランドのSnow Peak(スノーピーク)が初めて手がける、温泉施設を中心とした自然を感じる複合型リゾートだ。
設計を手掛けたのは、世界的な建築家である隈 研吾氏。
四季の自然と時間の移ろいを体感できる「ヴィラ棟」や隈氏とスノーピークが共同開発した「住箱」から成る宿泊施設のほか、日本三百名山のひとつである粟ヶ岳を望む開放的な露天風呂、焚火を囲むような感覚で楽しめるサウナ、地元の食材を活かしたメニューを提供するレストランなど多彩なコンテンツが揃う。
日本三百名山のひとつである粟ヶ岳を望む天然温泉とサウナ
すべての施設の根底に息づくのは「人生に、野遊びを。」という同社の理念。それが体験型の施設、そしてコンテンツとして見事に具現化されており、ゲストは滞在を通して「野遊び」の魅力を肌で感じることができるのだ。
「野遊びをやっているスノーピークならではの、新たな宿泊の形をつくろうと、10年ほど前から構想を広げてきました。我々には、お洒落なキャンプの世界観を日本の社会に豊かなものとして根付かせたいという想いがあります。本施設では、その想いを体験価値としてデザインしました」と語るのは、スノーピークの代表 山井 太氏。
未来に向けて新たなライフスタイルの新基準を新潟から全国に、そして世界に対して示している点が高く評価され、大賞に選ばれた。
「ニュージーランドにあるようなスーパーロッジや、英国の荘園領主風のマナーハウスなどに比肩し得る、大自然の圧倒的なスケール感やラグジュアリーな施設を擁しながら、世界のどこにもない独自の世界観を構築している」と評したのは、特別審査委員長の中村孝則氏。
四方を広大なガラス窓で囲まれた開放感のある客室
今回、「旅館・ホテル部門30」として大賞に輝いた同施設だが、併設する「Restaurant 雪峰」単体でも「新潟の食の豊かさを体感できるだけでなく、料理としての味わいや創意においても高いレベルにある」と、中村氏をはじめとする審査員たちから高い評価を受けた。
地元の食材を活かしてメニューが揃う「Restaurant 雪峰」
厨房で腕を振るうのは土門一滋氏。もともとはフランス料理を修行したシェフだが、オープンにあたりミシュラン三つ星を獲得した日本料理の名店「神楽坂 石かわ」の石川秀樹氏シェフの下で修行を積んだという。日本料理のエッセンスが加わった数々の料理には、地元新潟県産の食材がふんだんに使われており、料理を通して生産者の個性に触れられるのが特徴だ。
生産者の想いを乗せた“自然を食べる”料理が楽しめる
レストランだけの利用も可能なので、アウトドア派ではないという方も、ぜひ足を運んでみてほしい。
地域の風土や歴史、文化、さらに農林漁業の営みを料理に表現するローカル・ガストロノミーがテーマとなった今回のアワード。審査に際しては、料理の美味しさや施設のクオリティを担保していることはもちろん、世界の潮流である「ローカリゼーション」「サステナビリティ」を踏まえているか、そして独自の「フィロソフィー」を持っているかということが重要視された。
新潟は海と山の両方がある南北に長い地形により、地域によって多様な食文化を育んできた場所。まだまだ発掘されていない“知られざる美食”があるはずだと岩佐氏と中村氏は語る。今後も続いていくであろうという「新潟ガストロノミーアワード」に、引き続き注目していきたい。まずはぜひこの機会に、都内からのアクセスにも優れた新潟を訪れ、その魅力を自らの五感で感じてみて欲しい。
「my farm to table おにや」
新潟県新潟市中央区東堀前通8番町1377
Tel.025-210-7939
「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」
新潟県三条市中野原456ー1
Tel.0256-46-5650
特産品部門他のアワードの詳細はこちらへ
新潟ガストロノミー アワード
https://www.niigata-gastronomy-award.jp/