ソンム湾鉄道 フランス式鉄道旅の愉しみ方

北フランス。ソンム川が英仏海峡に流れ込むフランス最大の河口のあるソンム湾。広大な湿地や砂丘に囲まれ、自然保護地域としても有名で野鳥やアザラシが観察出来る地域で、ここにはこの岸辺を走るソンム湾鉄道がある。蒸気機関車にひかれる列車は、バカンスには多くの観光客を楽しませる。このソンム湾鉄道は1970年代に一度廃線になった路線。それを愛好家達が復活させたのだ。この美しい景観の中を走る路線を復活させたいと数名ではじめた活動は発展していった。実際にこの路線で走っていた車両ではなく、譲り受けた機関車やディーゼル車、そして客車を修理して運用している。運用に当たって20名ほどの職員の他、200名近い鉄道好きのボランティアによって支えられている。昨年50周年を迎えた愛好家達による協会で、フランス国内最大の鉄道を運営する非営利団体となっている。この鉄道を維持するために、特に夏のバカンスに合わせて汽車を走らせる。

この車両以外走っていないので線路上を乗客が作業を近づいて見学が可能。

もともと19世紀には夏の避暑地やビーチを訪れる観光客の足になっていたということと、蒸気機関車やその当時の木造の客車から古き良き時代”ベル・エポック”を楽しんでもらおうという趣向だ。今回はいくつかあるコースの中からディナーも楽しめるものに参加する機会を得た。ちなみに今年でこのソンム湾鉄道でのディナーでへ参加は4回目となる。もちろん予約すれば普通に楽しむ事ができるが、今回は古いコスチュームを楽しむ団体” Passion d’Histoire”に同行させて頂いた。彼らの活動は、歴史的な服装をしてイベントに参加すること。例えばナポレオンの時代やマリーアントワネットなどの宮廷晩餐会、今回のようなベル・エポックなど、17世紀から20世紀初頭のコスチュームを、時代考証などをして正確に再現して楽しむというもの。ベル・エポックと言っても19世紀の中頃から20世紀初頭ではファッションが異なる。今回は1920年代がテーマ。それぞれが着飾って参加すると言うのだ。そんな本気の大人達の遊びを目の当たりにする。
1920年代アル・カポネの時代がテーマ。マフィアがしきったパーティという設定らしい。それを企画した”Passion d’Histoire”の皆さん。
アトリエ・ハイネ=サン=ピエールが1920年に製造したモデル130のNo.15の機関車。1922年にフランスで運用を開始。この車両がここを走るようになったのは2011年。

午後7時発の列車。その15分ほど前に列車が到着して、機関車の連結などの準備が始まる。それに乗り込むと木造の客車でシートも木製。オリエント急行のような豪華さはない。と言うのも、当時のローカル線はレール幅が1mなのだ。その当時でも長距離線などは現代の路線のベースとなった1435mm。その分幅の狭い客車になっておりゆったりとは行かないため、寝台付きの豪華列車というわけには行かないのだ。この路線の一部はフランス国鉄の在来線と一部重なっているため、この幅の違うレールが同じ所を使っているので4本のレールが見られるところもある。そんな話しをしてくれたのは今回の機関士の一人の女性だった。旦那さんがこの愛好家協会に参加したことをきっかけに興味を持ち、機関士にまでなってしまったという。もちろんボランティアだ。
出発して沿道の人たちからカメラを向けられやや気恥ずかしい中、15分ほど走ると駅に停車した。そこでは水の補給をするという。もちろん機関車のだ。路線からするとここは終着駅でもあるので、機関車を連結し直す。水の補給と連結作業を間近で見ることが出来るというのも一つのイベントにしている。他に走る列車もないので、客車から降りた乗客はその作業を見守る。運転席に上がって写真を撮ったり機関士の人たちと話す機会にもなる。車掌さんもはじめは機関車の廻りにいたが作業が始まると少し離れたところに行った。話しを聞くとこの車掌さんもボランティア。汽車や鉄道が大好きだという。機関士はやらないのかと聞いてみると「私は石炭アレルギーがあってダメなんだよ」と話した。本職はオーケストラの指揮者。時間のあるときはここでボランティアをしているのだという。

出発前の連結作業。くわえたばこがいいのだ。最初の停車駅で汽車を切り離し水を補給。これを一つのイベントとして行うのだ。
石炭にアレルギーがあると言う車掌さん。本職はオーケストラの指揮者だが、鉄道が大好きなボランティアなのだ。

給水などを済ませると移動をはじめた。両サイドが水平線まで見渡せるような湿地や草原の広がるところに停車すると、いよいよディナーだ。”Passion d’Histoire”の連中は1920年代のアメリカの禁酒法時代をテーマにしているようで、マフィアに扮して大真面目に悪ふざけ。それを真剣に楽しんでいる。夕日を眺めながら給仕が始まる。カクテルから前菜、メインにデザートと本格的なフランス料理を堪能出来る。幅が狭いため揺れも大きく、室内も狭いので停車しての食事。日本のそれとは違いたっぷり時間を掛けて食事をする。23時に出発した駅に戻るという予定が、結局戻ってきたときは0時を廻っていた。列車を降りて改札を抜け帰って行く。乗客は貴重な経験と思い出に満足そうに去って行く。それを今回この列車で運行に関わったスタッフが見送る。彼らの満足げな顔は印象的だ。乗客が楽しむのはもちろん、運営する側も楽しんでいるのが伝わってくる。禁酒法時代のマフィア気取り、本物の蒸気機関車を運行するボランティア、いい年をした大人達が一生懸命に楽しむ姿が、何ともフランスっぽい。人生は常に美しいのだ。2022年のディナーはすでに完売。コロナウイルスもウクライナ侵攻も、きっともっと落ち着くだろう来年。フランス旅行でのこんな楽しみ方を、今から計画されるのはいかがだろうか?

”Passion d’Histoire”の主査を務めるフランク氏(Franck Dubois)は葉巻を加えて左に。そしてマフィアに挟まれた今日の機関士さん達。
メインのシャトーブリアンと付け合わせにエンドウ豆のダリオールにポメ・アンナ(スライスしたポテトをたっぷりのバターで調理したフランスの伝統的な料理)。伝統的なフランス料理を楽しめる。

ソンム湾鉄道
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