群馬県の草津温泉に開業した隈研吾・設計デザインの「草津きむらや」。温泉街の景観に馴染むようにデザインされた外観と内観で、五感をフルに使って温泉を体感できる空間になっています。客室は一室のみゆえ、1日一組限定でゆったりと過ごすことができるのもうれしい。温泉街の中央に広がる湯畑を一望できるロケーションで、湯畑を眺めながら客室内の温泉を楽しめる稀有な体験ができる温泉宿です。
湯畑から上がる湯気のカーブを外壁に再現
まず目につくのはそのユニークな外観。実はこの外観に配された石は草津温泉の湯畑に転がっている浅間石で、それをそのまま湯気を思わせるカーブを描くように配置しています。というのもこの湯宿のコンセプトは「湯畑の立体化」。古くからの温泉街に違和感なく馴染むように、地元の素材を使用し、地域のジオメトリーに則ったデザインがされています。それゆえ、外観の石の配置も、湯畑から立ち上がる湯気が描くジオメトリーを再現し、それに基づいて配置されているのです。建物単体で見ると奇抜に思えるデザインですが、街全体を俯瞰してみると、景観に違和感なく馴染んでいることがわかります。伝統的な建築を再現することも景観を壊さないアイデアの一つですが、このような新しいアプローチを用いることでも街の景観を拡張でき、これぞデザインの力といえます。
草津の湯畑を五感でたっぷり味わえる温泉宿
客室は2階にあり、1階部分は天ぷらを供するレストランになっています。もちろん事前に予約すれば夕食を1階のレストランで、旬の山菜などを味わうことができます。客室は温泉付きのツインベッドルーム。暖炉もあり、湯畑を眺めながら温泉に浸かり、視覚と触覚で湯畑に包まれる体験ができる空間です。客室の壁には浅間石を挟み込んだ和紙を貼り、アッパーライトで立体感ある作りに。壁と天井を黒で仕上げることで、旅館でありながらシックでモダンな雰囲気に仕上がっています。
また浴室の壁には湯畑で使われている瓦材が配されています。実は湯畑の床には瓦が敷き詰められているそうで、その瓦を湯気のジオメトリーを参照に有機的に配置。伝統的な素材を用いながら、まるでモダンアートのようなポップな印象の壁が、デザインのアクセントに。草津温泉は硫黄成分が強く部材の劣化が早いため、浴室に使った素材の多くは、温泉街で長年使われているものを用いたそう。
さらにうれしいのは客室の温泉は源泉掛け流しかつ、特別なお湯を引いているという点です。草津には主に源泉が6つあり、そのなかで最も有名なのが温泉街の中心に位置する湯畑源泉で、その周囲に白旗源泉、万代鉱源泉、西の河原源泉、地蔵源泉、煮川源泉という源泉があります。なかでも白旗源泉は最も歴史が古く、源頼朝が発見し入浴したという言い伝えがある由緒正しき源泉です。元は御座之湯という名で、頼朝公が三原野に狩りに来た際に御座りになった石がこの地にあった事から、この名前が付いたという説もあるそう。その御座之湯は明治21年に白旗温泉と改称し、「草津きむらや」に引湯しているのはこの白旗温泉なのです。
白旗温泉の共同湯は草津温泉の中でも最も人気の共同湯なので、いつも混雑しており、それを独り占めできるなんて贅沢の極み。硫黄分が強い濁り湯で、強酸性。皮膚炎にも効果が期待できるほど肌がすべすべになります。
残暑こそ温泉がラグジュアリー
冬の温泉も格別ですが、実は温泉は夏にも効果的。夏場はどうしても、お風呂もシャワーだけで済ませたり冷たい飲み物を多くとるので、湯船に浸かったり鍋などの温かい料理を食す冬に比べると、実は体を芯からしっかり温めることが少なくなります。そうすると血流が滞り代謝が悪くなり、結果疲れが取れず、それが夏バテの原因になることも。いくら猛暑だからといって、体が芯から温まっているわけではないので、比較的予約が取りやすい夏に、名湯に出かけるのは賢い選択。湯畑を立体的に表現したデザイン性の高い温泉宿で、心にも体にも栄養補給してはいかがでしょうか。
「草津きむらや」
〒377-1711
群馬県吾妻郡草津町草津117-1
TEL: 0279-82-5920
一泊二名10万7806円〜(素泊まり、税サ別)
https://kusatsu-kimuraya.com/