手に宿る美しさ:アレクサンドル・デュボックのオーダーメイド万年筆


デジタル全盛の現代。スマートフォンやパソコンで情報を処理する日々の中、手で文字を書くという行為は、思考や感情に新たな向き合い方をもたらしてくれます。その瞬間を特別に演出するなら、愛用の筆記具で。そして、さらに特別な時には、万年筆がふさわしいでしょう。

歴史を振り返れば、国家の首脳が重要な契約書に署名する際にも用いられてきた万年筆。ドイツやイタリア、日本の名だたるブランドがその伝統と美を極め、毎年発表される限定モデルは時にコレクターズアイテムとして高値で取引されています。しかし、量産品ではない、自分だけの一本を手にする機会があったとしたら——。
その夢を叶えてくれるのが、フランス人アーティスト アレクサンドル・デュボック氏です。

漆が織りなす唯一無二の芸術品を、手にする喜びを。

漆で表現された表面を持つ仕上がりのサンプル。

彼のアトリエは、パリ近郊ムードンの閑静な町にある歴史ある建物「Le Potager du Dauphin」に構えられています。この美しい元お屋敷には、20名近いアーティストが集い、それぞれの創作活動を行っています。アレクサンドル氏もその一人で、文具や筆記具の展示会ではなく、工芸品やアートのイベントにその作品を出品する、まさにアーティストとしての道を歩む存在です。

アトリエで作業中のアレクサンドル氏。ペン軸を削り出している。

もともとギター製作の職人としてキャリアを積んでいたアレクサンドル氏は、万年筆を「脳内の思考を手を通じて紙に伝えるための道具」と捉え、制作に没頭するようになりました。そしてその表現の一部に、日本の伝統技法である漆 を取り入れることで、彼独自の世界を築き上げていきます。

壁に貼られた彼のデザイン。

日本の伝統と革新の融合

作業台には漆塗りに使われる刷毛がならぶ。

彼が使っている漆。

アレクサンドル氏は、日本文化に深く魅了され、特に漆と蒔絵に心を奪われました。京都で漆の技法を学び、職人としての修行を経ることはしなかったものの、日本で得た知識と経験を自らの感性で昇華させ、独自の表現を生み出しています。彼の作品は、日本の伝統に縛られることなく、フランス人ならではの自由な発想と美的感覚で、新たな蒔絵の可能性を探求しています。
例えば、日本の蒔絵では伝統的に避けられる技法や表現を敢えて採用し、独自の効果を引き出す。その結果、従来の枠を超えた美しさとユニークさを持つ作品が誕生します。昨年パリで開催された現代工芸展「Bel Ouvrage」では、禅を表現した漆と金箔を使った作品が来場者を魅了し、大きな注目を集めました。

制作途中の作品。この円盤のようなパーツが万年筆なのか?完成した作品はまた後ほど。

オーダーメイドで叶える、世界に一つだけの万年筆

これは制作途中の作品。金箔や漆を使って作品となっていく。

アレクサンドル氏は、自身の創作活動の一環として万年筆を制作していますが、オーダーメイドにも応じています。ペンの太さ、長さ、重量バランス、色彩、質感まで、すべてを細かく指定することが可能です。もし具体的なイメージがない場合でも、あなたの好みやライフスタイルに基づき、彼が最適な提案をしてくれるでしょう。
彼の手による万年筆は、ただの筆記具ではなく、持ち主の個性を映し出す唯一無二のアートピースです。その一本を手にした時、書くという行為がこれまで以上に特別な体験となるでしょう。

アトリエにディスプレイされた彼の作品。

手の中に宿る芸術、紙に綴る至福の時間

作品を前に立つアレクサンドル氏(Alexandre Duboc)

アレクサンドル・デュボック氏の万年筆は、書くための道具であると同時に、アートそのものです。ぜひ彼の作品を手に取り、自分だけの世界を表現する喜びを体験してみてください。

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その展示でここに参加しているほかの作家とコラボレーションで作られた作品。箱は木工職人Thierry Drevelle、金のプレートは人間国宝のFanny Boucher、そして万年筆は彼の作品。この万年筆はキセル筒からインスピレーションを受けて作られている。

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