Guylène Garcia(ギレンヌ・ガルシア)は、とにかく布が大好きです。その情熱に導かれ、彼女はオートクチュールの世界に飛び込みました。名だたるメゾンで経験を積み、20年後に一度、立ち止まり自分を見つめ直す時間を取りました。しかし、布から離れることはできませんでした。そして彼女が新たに出会ったのが「椅子」でした。
物心ついたときから布や糸に惹かれて、オートクチュールの世界に飛び込み、今では椅子で自分を表現する。今は椅子を主役に部屋中を布で覆い尽くす作品を作るのが夢だという。
日本では椅子に座る文化は比較的新しいものですが、西洋では椅子の歴史は長く、多様な形状があります。その中で、ギレンヌには椅子が女性の身体のような美しい曲線を持つ存在に見えたのです。椅子に布を当ててみると、それはオートクチュールで人のためにドレスを仕立てることと何ら変わらず、むしろ彼女が求めていた表現そのものでした。
歴史あるアトリエ、ムドンの「Potager du Dauphin」
Potager du Dauphin。ルイ14世が長男のために作らせたお屋敷。現在はアーティストたちのアトリエとして使用されている。
パリの西、セーヌ川を挟んだムドンという街には、歴史ある「Potager du Dauphin(ドーフィンの菜園)」があります。ルイ14世が長男のために購入したこの地は、革命後は公共の施設となり、現在はムドン市がアーティストのアトリエとして開放しています。ギレンヌはこの場所にアトリエを構えて6年になります。
直感で形にする、唯一無二の作品
アトリエに貼られた参考写真や素材。スケッチに頼らず、直感で作品を仕上げる。
ギレンヌの創作スタイルは独特です。イメージが浮かんだら、スケッチや図面を描くことなく、すぐに布を手に取り椅子に合わせていきます。こうして形づくられた椅子は、ギャラリーやインテリアフェアで展示され、購入されることもあれば、世界に一つだけのオーダーを受けることもあります。
オーダーは難しく考える必要はありません。色や素材、椅子を置く部屋のインテリアなど、ぼんやりとしたイメージでもギレンヌに伝えれば、彼女が理想の椅子へと仕上げてくれます。
制作風景:アフリカをテーマにした椅子
アトリエで作品を制作中のGuylène Garcia(ギレンヌ・ガルシア)。椅子をキャンバスあるいはモデルに見立て、布と糸で独自の作品を生み出す彼女の姿。
椅子に最も適した布を選び、美しいスタイルを作り上げる過程。まるでドレスが仕立てられていくよう。
椅子に最も適した布を選び、美しいスタイルを作り上げる過程。まるでドレスが仕立てられていくよう。
自ら藁を編み込むことで、自然素材の質感を最大限に生かしたデザインを完成させる。
椅子の曲面に布を丁寧に合わせる作業。オートクチュールの経験が活かされている。
アフリカの文化を表現した布地が椅子全体を覆う。細い三つ編みの装飾が特徴。
アフリカ人女性が細い三つ編みをしていると言うイメージから布を編んだいくつもの三つ編みの布が椅子全体を覆っている。
これは以前そのアフリカのイメージで椅子を制作中にお邪魔した時の写真。自然な素材を生かして藁なども使用している。
その細い三つ編みを縫い付けていく。
アトリエを訪れたとき、ギレンヌはアフリカをテーマにした椅子を制作中でした。布地にはアフリカの大地と空が表現され、細やかな編み込みヘアスタイルを思わせる装飾が施されています。シルクや藁を組み合わせ、自然のコントラストを見事に表現。藁を一本一本編み込む作業は、まるで毛糸でセーターを編むような感覚で進められます。
アンティークの椅子やモダンな椅子をベースにすることもあれば、対照的な二つの椅子をペアとして仕立てることも。インスピレーションを求めて、彼女は骨董市やクリニャンクールのようなアンティーク街を訪れ、思いがけない出会いを楽しんでいます。
椅子と空間を一つのアートに
彼女にとって問題なのは作品が大きくて保管が大変なこと。グリーンの作品はスチール製のアンティーク調パティーナ仕上げの脚部をもつ。足を伸ばしてリラクス出来るスタイル。この作品をギャラリーで展示したときに撮影でパリにいたピアース・ブロスナンがスタッフと共にやって来て土足でこれに腰掛けて足を乗せた。これは工業製品ではなく1点もののアートなので、勇気を振り絞って足を下ろすようにドキドキしながら言ったというエピソードを持つ。
今、ギレンヌが最もやりたいことは、椅子を主人公に、壁から天井、床に至るまで布で空間全体を覆い尽くすこと。そんな彼女のアトリエを訪れ、あなたのための特別な椅子を相談してみませんか? 彼女の手で仕立てられた椅子が、日常に新たな彩りと喜びをもたらしてくれることでしょう。