靴をオーダーメイドで作るという事はその靴と一生付き合えるという事。それは自分の足に合わせて作られた靴だけに、これ以上の履き心地の良いものは無い。革靴は履けば履くほど馴染んで行く。これが運が悪いと足にちょうど馴染んだところで靴底がダメになったり、どこかが破けたりすることもある。しかしオーダーメイドの靴なら修理をしてもらえる。だからより長く履けるからより愛着も湧く。とはいえ靴のオーダーメイドはなかなか大変そうだというイメージがある。それをできるだけ簡素化し、伝統的な職人の技を活かしながらデジタル処理できるところはそれに任せる。現代的なシステムで一人一人の違ったサイズでの靴を作る。そんなことをしているのがDervilleだ。
伝統と現代のデザインを融合しパリからも表彰されるオーダーメイド靴
Dervilleは長さ33m、パリでもっとも短いパッサージュPassage des Deux Pavillonsに2007年に開いた。フランスのエレガントを保ち、伝統と現代のデザインをオーダーメイドという手法で実践する。それがここを開いたときからのコンセプトだ。職人であり、オーナーであるムッシュ・オリヴィエ カロバーグは革で物作りをしたいと靴を選んだ。フランスでは職人の匠を継承するために、ムッシュ・オリヴィエのように職人の道に入りたいという人を支援する組織があり、靴職人に弟子入りできるように支援してくれたという。そこで靴作りの基本を学び自分のスタイルを確立した。このDervilleを開く前までムッシュは18年間ロレアルで経験を積んでいた。そこで、ファッションやエレガントとは何かを身につけていたのだ。2022年にはパリ市からその伝統工芸、職人技を認められ”Label Fabriqué à Paris”を受賞している。
オーダーはモデル選びと細かい採寸から
ブティックを訪れるといくつかの靴が並ぶ。それを眺め自分のスタイルと合ったなら話は早い。
ここでオーダーすると決めたらまず、どのモデルにするか選ぶところから始まる。基本的につま先のスタイルの違う3種類からまず選び、スタイルを絞っていく。3種類のつま先のスタイルからと言ってもそこから派生したデザインは実に700種類になる。そこからデザインを絞っていくのは容易ではない。
デザインが決まれば色などの仕上げを決めていく。そしていよいよ足のサイズを採寸する。足首の周りから指の付け根など数パターンで採寸をする。
計り終わるとすぐに、それに合った採寸用の靴が奥から出てくる。その靴を実際に履いてみて細かい調整をしていく。例えば足首から足の甲の高さがあるような場合はその採寸用の靴にその高さ分のパッドを当てるなどして仕上がりの大きさを再現していく。
採寸用の靴が決まればそれぞれの靴にはデータがあるのでそれを元に靴の製作がはじめられる。この採寸用の靴は70足ほど用意されていて、まずほとんどの足に合わせることが出来る。
デジタル化でコストを抑え良いものを身近に
採寸したデーターを契約している靴のアトリエに送り、靴を作ってもらう。使う靴の革は基本一種類。デジタル化されたパターンに採寸したデータを送ると採寸した通りに革をカットされるというわけだ。
作る側で革を統一すること。デジタル化したパターンによって行程を簡略することでコストを抑えることが出来るというシステム。
キャンパスを熟練の技術で美しく染め上げる
縫製が終わって無地の状態の靴がアトリエからこのブティックに到着する。ここからはムッシュ・オリヴィエ の本領発揮という所。ブティック内にあるシューズ・バー・カウンターが彼の作業場だ。革の染料を用意してまっ白な靴のキャンバスに顧客の依頼する仕上げをここでして行くのだ。一般的な単色で仕上げるのも良し、サンバーストのようなメリハリのあるもの。あるいは木目のような仕上がりなんて言うのも出来る。
正確な採寸でほぼ調整いらず。海外からのオーダーも多数
最終的にできあがった靴を履いてもらっても、ほぼ間違いなくピタリとしたサイズで修正するようなことは希だという。確かに、靴ができあがったところで確認をするのがベストだが、多くの場合、完成したものを発送する。海外からの顧客も多いからだ。それでほとんど顧客から満足の御礼の連絡が来ると言うことだ。日本からでもオーダーだけすれば後は完成まで日本で待っていれば良い。
もちろんこれはベーシックなオーダーで、お気に入りのスタイルや、革の種類なども別にオーダー可能。サイズだけでなく世界で1つだけの靴がオーダー出来る。
ここでは靴だけではなくベルトやバッグなどの革製品も展開を開始。小物入れやバックギャモンなどのテーブルゲーム、そして愛煙家であるオリビエ氏ならではのたばこのケース。とにかく革でものを作るのが大好きで仕方が無い。革への愛があふれるDervilleで靴をオーダーしてみては?ちょっと靴をオーダーしにパリまで…
5 rue des Petits Champs,
Passage des 2 pavillons
75001 Paris
オーダーの流れ
顧客はゆったりとソファーに腰掛け、オーダーブックに足の形を書き込まれる。そして決められた位置での周囲の長さを測っていく。
幅の最も広いところ、トップライン、その中間当たりでの足囲を計測。
かかとから足首周辺も測定。
一般的な靴のサイズに加え、細身、ワイドなど各サイズで70種以上揃っている確認用のシューズ。
採寸してそれに最も近い確認用シューズを履いて細かいところを確認する。靴の縫い目は何度も脱ぎ履きして革が伸び縮みしないようにするためで測定のためではない。
これがDervilleのオーダー用紙。
小指の付け根、一番ワイドな部分が特別大きく張りだしている、なんていう顧客のサイズや特徴的な形状をここで確認する。
足の甲の部分が一般的より高いと靴紐が通る羽根が広がってしまう。ここは常に真っ直ぐ閉じていなければいけない。そのためにどれだけ高くするかなどを測定。
甲の部分が高い場合は標準的な足型にその高さ分のパッドを合わせてデーターをとる
革で出来たバックギャモン。コマはセラミック。と言うのも娘さんがセラミックのアーティストなのだ。
ムッシュ・オリヴィエの創造の宇宙。ここでアイデアが生まれまとめられていくという。
試作中のニューモデル。こういった試作はスケッチに始まりどういったパターンで作っていけるか。そしてこのようここで形にされる。
平面を縫うためのミシン。
パターンを考えるためのデッサン。
そこからまず厚紙でパターンを製作。
もう一台の靴用のミシンで実際に縫って形にしてみる。
靴だけでなく小物はここでムッシュ・オリヴィエが製作している。
パスケースの製作風景。
仕上げはムッシュ・オリビエの一番の楽しみ。靴に生命を吹き込む。そのために染料やインクがいくつも用意されている。
この靴を染めていく工程はブティックで行われる。ウィンドーが広く取ったブティックなので外からもその様子が見られる。
ブティックに置かれた靴はモデルや、仕上げのサンプル。
フランスの靴のエレガントをもっとも大事に仕上げていく。
できあがった靴の表面は白い。それはムッシュ・オリヴィエにとってキャンバスのようだ。
木目のような模様というのがこのモデルのオーダーのようだ。筆で塗り進められていく。
革の重なる段差に合わせて塗り進めていく。
ベロの着色は羽根に重なるので余計なインクが付かないように注意していく。一度付いたインクを落とすことは出来ないからだ。
木目になるラインを入れていく。
ムッシュ・オリヴィエにはすでに完成の絵が頭にある。それに近づけていくのだ。
何色も重ねて仕上げていく。
もちろん色はインクのそのままではなく、混色していく。
別の靴で仕上げを見せていただく。ワックスを塗り込んでいる。
水を一滴たらして磨くと表面のツヤが増し輝いてくる。その瞬間にムッシュ・オリヴィエはこの笑顔になる。とにかく楽しくて仕方が無い様子。
しばらくすると天井のライトが映り込む。これからさらに磨き込んで鏡面仕上げにする。履き込んでこの艶が薄れてきたらここに戻ってくればまたツヤを取り戻してくれる。
こちらもサンプル。シンプルなシルエットに穴飾りをさりげなく。イニシャルを模様に穴飾りを入れるのもいい。
カジュアルにはけるモデルを開発中。スニーカーの様なソール。もちろんすり減っても交換可能。
ムッシュ・オリヴィエが気に入っているクロコダイル。バッグやベルトのイメージからゴワゴワ硬そうだが実は強くてとてもやわらかい。
クロコダイルを使ってブレスレッドも作っている。
履き古したジーンズのイメージのカラーリング。
基本はつま先の形状の3種類だが、そこから無限に広がるモデル。その一部をイラストで見ることも出来る。自分に合った靴を見つける事から始まる。
ブティック
このブティックで15年靴を作り続けている。フランスは当然ながら世界中にムッシュ・オリヴィエの世界に魅了された顧客がいるのだ。
先日お伝えしたMaison Bonnetのお隣、同じPassage des 2 pavillonsをぬけるとDervilleがある。