料理長が目の前に! ジャカジャカと鍋を振る音、トントンと大きな中華包丁で食材を切る音が、リズミカルに伝わってくる。カウンター8席、テーブル8席。
昨秋、代々木上原に注目の中国料理店が登場。
伝統的な四川料理をベースに、独自のテイストで人気を博す『飄香(ピャオシャン)』グループが手掛ける、初のカウンターレストラン『竹韻飄香(ジュユインピャオシャン)』である。
『飄香』グループを率いるのはオーナーシェフ、井桁良樹氏だ。上海と成都で修業し、「百の素材があれば百の調理法がある」ともいわれる四川料理の500以上のレシピを習得し、2018年には伝統四川料理の流れを汲む成都『松雲門派』に弟子入り。研修を重ね、その継承人として認められた料理人ということもあり、銀座三越や六本木ヒルズでも店舗展開する同グループでは、「老四川」と呼ばれる伝統四川料理と現代四川料理の両方を提供する。
左/『飄香』グループを率いるオーナーシェフ、井桁良樹氏。右/『竹韻飄香』料理長、廣瀬文彦氏。
新店舗である『竹韻飄香』で料理長を務めるのは、『飄香』グループ全店で料理長を歴任してきた廣瀬文彦氏。2000年に四川から帰国したばかりの井桁氏と出会い、自身も四川に渡って2年間研鑽を積んだ、いわば井桁氏の右腕である。化学調味料不使用。厳選した本場の香辛料や自家製の発酵調味料を用いるのはもちろん、廣瀬氏が四川で感動した技法や味の記憶を駆使して、ゲストの目の前、カウンターキッチンで腕を振るう。
「五彩牛肉春巻」550円。
本店では麻婆豆腐やよだれ鶏が有名だが、こちらではぜひ、四川の家庭や食堂で日常的に親しまれている郷土料理を堪能してほしい。メニューが魅力的、かつ価格も手頃なため、あれもこれもと目移りするが、まず、頼んで欲しいのが「五彩牛肉春巻」である。いわゆる生春巻だが、ベトナム式と違って四川では手焼きの皮を使うのが基本。しっとりもっちりの生地に包まれるのは、発酵させた唐辛子の旨味と辛味のアクセントを効かせた牛肉と細切りにした野菜。本来、ちょっとジャンクなあちらのソウルフードなのだが、廣瀬氏の手にかかれば、グッと洗練される。それゆえ、ビールはもちろん、シャンパンとの相性もいい。
「四川屋台の味 鴨の頭のスパイス煮」880円。
また、中国全土で食べられる国民食的存在、「四川屋台の味 鴨の頭のスパイス煮」も是非ものだ。その名の通り、屋台で親しまれている一品だ。鴨は身はもちろん、北京ダックで知られる皮も美味だが、鴨の頭はコラーゲン質で、中にはとろりとした脳みそが詰まっており、ピリ辛ソースとの相性も抜群。実際に食してみると、本場に専門店があるというのもうなずける。
「味噌漬け岩手短角牛(カイノミ) の一夜干し“酒仙”李白に捧ぐ 」3,520円。
いくつか、ツマミになるような前菜を平らげた後は、食べ応えのあるメインへと箸を進めたい。甜面醤と醪糟(ラオザオ)という四川特有の発酵調味料、それから混合スパイスで肉を漬け込み、一夜干しにすることで旨味を凝縮させて、火を入れた一品である。唐の詩人、李白が好んだことから「太白醤肉」とも呼ばれたというから、なんと8世紀頃にはすでにあった調理法を用いているわけだ。オリジナルは豚肉だが、ここでは岩手短角牛を使用。噛み締めるごとに、肉の熟成感と辛いだけではない、馥郁たるスパイスの風味が混じり合う。中国の、四川の、歴史と文化の凄みを感じないわけにはいかない。
「四川伝統田舎料理あずき餡を豚肉で挟んだもち米蒸し」1,980円。
ところで、1960年代から1970年代にかけて、フランス人の星付きシェフたちがこぞって香港を訪れ、それまでフランスではほぼ用いられていなかった“蒸す”という調理法を学んで持ち帰り、自分たちの料理に取り入れたことをご存知だろうか? 中国の宴席では定番とされる小豆と豚肉の甘い蒸し物には、蒸すという中国料理を代表する技法、豚を好む民族性、中国が餅米の起源とされるという歴史的経緯などが、ぎゅっと詰め込まれている。ひと口食べれば、その意外なおいしさにやみつきになるはずだ。これもまた、この店の看板料理となっている。
「四川屋台の名物麺」1,540円。
締めにはぜひ、こちらの赤いスープに染まった麺を。向こうでは「複雑な味の麺」という意味の「怪味面」と呼ばれているとか。鶏に干し海老、貝柱、スルメ、焼いて粉末にした干しカレイで出汁をとり、唐辛子や四川の花山椒などを加えたスープは、旨みは甘み、さらにビリビリするような痺れる辛みが感じられ、まさに複雑。キリッとした後味がさすがである。ほか、おからを使ったスパイシーなソースを絡めた鴨の香り揚げや皮付き豚スネ肉の回鍋肉など、四川らしい料理がゲストを待ち構えている。
ドリンクメニューも豊富だ。特製カクテルやワイン、自家製ノンアルコールドリンクはもちろん、四川では紹興酒よりもポピュラーな蒸留酒である白酒(パイチュウ)も各種揃えている。現地にならってストレートでも、また、飲みやすくアレンジしたカクテルでも楽しめる。それらとのマッチングも含め、中国4000年の歴史を背景に『竹韻飄香』式にアップデートした数々の皿は、つまり世界の最先端をゆく四川料理なのである。
竹韻飄香(ジュユインピャオシャン)
東京都渋谷区上原1-17-14LAビル1F
TEL:03-6407-0773
11:30〜14:00LO、18:00〜21:00LO
月・火曜休
https://www.piao-xiang.com/
ランチはセット2,950円、コース4,950円。ディナーはコース11,000円〜、アラカルト880円〜。
白酒はショットグラス4,000円〜、ボトル48,000円〜。紹興酒はグラス880円〜、1合1,760円、2合3,200円など。カクテル990円〜。ワインはグラス900円〜、ボトル3,800円〜。