自分の手で作る、フランスの記憶

写真/文: 櫻井朋成
Photo/text: Tomonari Sakurai

― 林妙玲(ミョウレイ)さんのプレミアム料理教室

フランスを訪れ、憧れのレストランで一皿を味わう——今では多くの人にとって、手の届く体験となった。けれど、その感動の味を「自分の手で」再現するとなると、話は別だ。
そんな夢を叶えてくれるのが、パリで開催されている料理人・林妙玲(ミョウレイ)さんのプライベート料理教室である。

研鑽の歴史はニューヨークから


妙玲さんの料理の旅は、料理好きだったお父様の背中を見つめる幼少期から始まった。早くから「やるならフレンチ」と心を決め、まずは言葉を学ぶため単身ニューヨークへ。英語を習得しながら、世界的に名高いCIA(The Culinary Institute of America)にて本格的な料理教育を受け、学士号を取得した。
卒業後は、アラン・デュカスの三つ星レストランでキャリアをスタート。敬愛するディディエ・エレナ(Didier Elena)シェフのもとで研鑽を積む。さらに、ニューヨーク近代美術館(MoMA)内のフレンチ・ガストロノミー・レストランのオープニングスタッフとしても活躍。開店間もなくしてミシュラン1つ星を獲得するなど、その実力は早くから注目を集めていた。

5つ星レストランサービスでホスピタリティを


その後、自身のスタイルを求めてロサンゼルスに移るも「ここではない」と感じ、南仏にあるミシュラン2つ星レストランに転職。現在では三つ星を獲得しているこの名店での経験もまた、彼女の基盤となっている。
しかし、体質的に地中海性気候が合わず、次なる舞台として選んだのはアイルランド。そこでパリのフォーシーズンズホテルの総支配人が監修するサービス研修を受け、5つ星ホテルの開業準備やレストランサービスに携わることで、接客技術とホスピタリティの真髄を身につけた。
さらにチェコへと渡り、数年にわたり5つ星ホテルでゲストアシスタントとして勤務。キッチンとサービスを結ぶ立場で、料理と人をつなぐ“伝える力”——コミュニケーションの技術をより深めていく。

パリで一流技術を伝える料理教室を


そして現在の拠点・パリへ。第二子を出産したばかりの時期、しばらくは育児に専念していたが、妙玲さんの料理を知る人々から「ぜひ教室を開いてほしい」との要望が絶えず寄せられるように。そこで、赤ちゃんを背負いながら小さな料理教室をスタートしたのが、現在の活動のはじまりだった。
プロの現場で培った技術と、世界各地で磨いてきた“伝える力”。そのすべてを注いだ妙玲さんのレッスンは、瞬く間に支持を集める。

Netflixの人気番組の料理を監修し更に注目を浴びる


Netflixの人気シリーズ『エミリー、パリへ行く』では、フードコーディネーターとしてシーズン1の終盤から参加し、シーズン2では丸々一シーズンを通して料理監修を担当。もともとは恋愛を軸としたストーリーのため、制作側も料理に大きく焦点を当てるつもりはなかったそうだが、
妙玲さんが手がけたシーズン2の食事シーンが視覚的・物語的にも大きな反響を呼び、以降のシーズンでは料理演出への予算と関心が飛躍的に高まったという。
実際にシーズン1とシーズン2を見比べると、料理の扱われ方やクオリティの違いは一目瞭然だ。

レッスンは家庭での再現性を重視して構成

今回、次回のレッスンに向けて行われたメニュー開発と試作の現場を取材させていただいた。

前菜には、卵を蒸し焼きにしたクラシックなココットに、ジロール茸とシャンピニョン・ド・パリの香り、pesto de roquette(ルッコラのソース)、羊乳のハードチーズ・ペコリーノが添えられる——
シンプルでありながら、香りとテクスチャーに豊かな陰影をもたらす一皿、
Cocotte d’œuf aux champignons, pesto de roquette, pecorino(茸のココット蒸し 卵、ルッコラソースとペコリーノ添え)。


調理器具の選定から火入れの細部、器との相性までを確認しながら、家庭でも無理なく再現できるように丁寧に構成されていく。レッスンは午前中に始まり、完成した料理はワインとのマリアージュとともにランチとしていただくスタイル。知らない者同士で集まった生徒たちが、最後には一つのテーブルを囲み、自然と会話と笑顔が交わされる。
それはまるで、朝の静けさがやがて華やかなランチタイムへと変わる、特別な美食サロンのような時間。
レッスンは日本語で行われるため、パリ在住の日本人や日本からの旅行者に広く親しまれている。また、彼女の流暢な英語力によって、アメリカやオーストラリアなど英語圏からの参加者も多い。なかには「普段料理はしないけれど、あの味がどう作られるのか見てみたい」と足を運ぶグルメな参加者もいるという。


そしてメインディッシュは、秋の食材が集う贅沢なひと皿。
マグレ・ド・カナール(鴨胸肉)に、ローストしたビーツとポティマロン(栗かぼちゃ)、イチジクを合わせ、赤ワインとポルト酒の濃密なレデュクションをかけた、
Magret de canard poêlé, betterave et potimarron rôtis, figue et réduction de Porto(鴨胸肉のポワレ ビーツと栗かぼちゃのロースト、イチジクとポルト酒のソース)。

素材の火入れから、断面の温度、美しいソースの流れまで、すべてが計算されているようでいて、あくまで軽やかに。それはプロの精度と、日常へのまなざしが絶妙に溶け合うレッスンの醍醐味でもある。

「レストランで食べる」だけでは終わらない、旅の記憶。
自分の手で作るという、もうひとつの贅沢。
なお、妙玲さんは現在、パリ市内に新たなアトリエキッチンをオープン予定。この特別な空間で、彼女がどのようにレッスンを展開していくのか、今から楽しみでならない。
次回は、その新しいアトリエでの現場を、ぜひまた皆さまにお届けしたい。

gallery

02

Image 2 of 21

手のひらの上で、森の香りをまとったジロール茸を一つずつ整えていく。林妙玲さんの教室では、素材の特徴や見分け方まで丁寧に伝えられる。

櫻井朋成

写真家。フォトライター

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

関連記事

  1. ボトリングティーブランド「IBUKI bottled tea」、2025年の新茶のみを使用した限定商…

  2. ブランド史上最長29年の二次熟成期間「ザ シングルトン 42年 トリプティク ザ グルマン コレクシ…

  3. シャングリ・ラ 東京、おもたせにも最適なプレミアムな「ベルベッティチーズケーキ」を販売開始

  4. あの割烹が『銀座 kappou ukai 肉匠(にくしょう)』にリニューアルオープン

  5. 四川料理の名門グループからカウンターの一軒『竹韻飄香』がデビュー

  6. ザ・リッツ・カールトン東京 六本木の天空で過ごす、極上のサマーエクスペリエンス

  7. アンダーズ 東京で桜とともに春の訪れを楽しむ「2025年スプリングシーズンスペシャルメニュー」開催

  8. 『パーク ハイアット 京都』にて、 酒造りの神様、農口尚彦氏とのコラボレーションディナー&…

  9. kanolly

    ヤザワミート監修、一日一組限定のリゾート「KANOLLY Resorts HAKUBA」

人気記事 PICK UP!

HOT TOPICS

おすすめ記事

  1. 北海道のFUDO〜風土〜を旅する 仁木町ニセコ町テロワールツーリズム
  2. W大阪とクリスチャン ルブタン ビューティがコラボしたエレガントなアフタヌーンテ…
  3. Calligrane 紙と静寂のあいだに宿るもの
  4. ついに今秋登場!究極のラグジュアリームーバー「LEXUS LM」
  5. ふたつの“ふふ”が軽井沢に開業
  6. イタリアの名門ブランドDe Padova社のフォールディングチェア「SUNDAN…
  7. lucienpellafinet ハイテク素材で心地良い、「lucien pellat-finet LPFG」夏の…
  8. タリスカー史上最高酒齢46年の熟成ウイスキー 「タリスカー 1976」限定発売
  9. 四川料理の名門グループからカウンターの一軒『竹韻飄香』がデビュー
  10. 漆の香りと若き手仕事――橋本甚蔵商店で見た「祈りの履物」
PAGE TOP