五感で味わう、赤澤香里の魔法のデザート

写真/文: 櫻井朋成
Photo/text: Tomonari Sakurai

春の訪れを告げるミモザの花。ミモザの花自体は食べられないため、そのイメージをデザートで表現する

フランス料理のフルコースにおいて、デザートは特別な意味を持つ。
フランスの食文化では、日常的に食後にデザートを楽しむ習慣があり、甘いもので締めくくらないと食事が終わった気がしないほどだ。
しかし、レストランのコースとなると、デザートは単なる甘味ではなく、コース全体を締めくくる重要な要素となる。
デザートの良し悪しが、その日のコースを最高のものにすることもあれば、逆に台無しにしてしまうことさえある。そんなフルコースの世界で、シェフ・パティシエとして活躍するのが赤澤香里さんだ。
前回、糸井シェフとのコラボレーションを成功させた竹田シェフのもとで、シェフ・パティシエを務める赤澤香里さん。彼女は、このコラボ企画でもデザートを担当し、成功へと導いた立役者でもある。今回は、そんな香里さんに焦点を当ててみよう。

日本からフランスへ、香里さんの挑戦

-Restaurant Calice シェフ・パティシエ-

赤澤香里。香川県出身。2003年京都の製菓専門学校を卒業後、地元のパティスリーに就職。2005年、日本の23歳以下の技能五輪パティスリー部門で銀賞、翌年2006年に銅賞獲得。2008年にパリのパティスリーで働き始める。シャンパーニュ地方のレストランなどで修行をしながらJRAのソムリエの資格を取得。パリに戻ってシェフパティシエを務めながら〈カフェキツネ〉とのコラボをしたり、パリで有名な雑誌〈Fou de patisserie〉にレシピを掲載、〈le monde〉などのフランスの新聞に紹介され、瞬く間に話題のパティスリーに。数年後、パリで新たなパティスリーをオープンするプロジェクトも計画中。

デザートのアイデアが浮かぶと、スケッチを描いたり、物語を書いたりする。それは、デザート全体の構想であったり、レシピのアイデアであったり、あるいは部分的な要素だったりする。今回、そんな香里さんのアイデアノートを見せていただいた。

香川県出身の赤澤香里さんは、地元のパティスリーで4年間勤務した後、フランスへ渡った。当時、日本で親しまれていたショートケーキ文化とは異なるフランスのスイーツに惹かれ、本場での修行を決意したのが17年前のことだ。
パリやシャンパーニュ地方で経験を積んだ後、新しく開くパティスリーに開店の準備から参加。ここで香里さんの人気は一気に高まった。
フランスの伝統的な菓子に、日本の食材を取り入れながら、彼女独自のスタイルを築き上げていく。
2024年からは現職のパリ5区にあるワインバー、「Calice」にて普通のワインバーのレベルでは無い、美しく美味しく、オリジナリティ溢れるアシェットデセールで、舌の肥えた地元フランス人を魅了している。
そんな彼女のデザートを食べる為に訪れるお客様も少なくない。
パティスリーのブティックでもレストランでもシェフパティシエールの経験をし、お持ち帰りのデザートもアシェットデセールも高いレベルで作れる彼女はフリーランスとしても活動し、今後活躍の場所を増やしていく。

「Calice」で輝く香里さんのデザート

食材はもちろん、花や果物、時には虫からもインスピレーションを受ける。また、四国・香川で生まれ育った影響から、海の存在も大きなインスピレーションの源になっているようだ。

イラストを描くことが好きで、それがメニューを物語のようにする。その発想から、以前勤めていたレストランではメニューに自らイラストを描いていたという。

竹田シェフの料理は、驚きと喜びに満ちたストーリー性のあるコースメニューが特徴だ。その最後を締めくくる香里さんのデザートもまた、美しさと味わいが一体となり、まるで物語のエンディングのような存在感を放つ。
甘さだけでなく酸味や塩味のバランス、ふわっとした食感とカリッとした食感のコントラスト、一口ごとに異なる味わい——彼女のデザートは決して飽きることがない。視覚・嗅覚・味覚のすべてを魅了する、まるで魔法のようなスイーツなのだ。
そのアイデアの源には、四季折々の花や自然、伝統行事などがある。思いついたアイデアをスケッチしたり、メモを書いたり、時には物語として膨らませることも。こうして生まれた香里さんの幻想的な世界が、デザートという形で具現化される。

香里さんのデザート3品

今回の撮影では、「Calice」のメニューに登場する3品のデザートを作る様子を撮影させていただいた。

1品目:とろけるチーズケーキ「ミモザ」風
CHEESECAKE FONDANT “Mimosa”, crumble, espuma noix de coco, sorbet fruit de la passion

春の訪れを告げるミモザの花をモチーフにした、彩り豊かなチーズケーキ。パッションフルーツで色付けしたメレンゲにココナッツのパウダーを振りかけ、王冠のようにケーキの上にそっと乗せる。
サクサクとしたメレンゲ、ふんわりとしたチーズケーキ、そしてパッションフルーツの酸味が甘みを引き立て、口の中に優しい香りが広がる。

とろけるチーズケーキ「ミモザ」風

Image 1 of 5

クランブルの上にチーズケーキをそっと載せる。

2品目:温かいチョコレートタルト
TARTELETTE AU CHOCOLAT COULANT, ganache au thé hojicha, glace à la vanille de Madagascar, sobacha

一見すると甘そうなチョコレートタルト。しかし、スプーンを入れるとスフレのようなふわっとした食感が広がる。
アクセントとなるのがほうじ茶風味のガナッシュ。ほとんど甘さを感じさせず、横に添えられたバニラアイスとともに食べることで、甘み・カカオのほろ苦さ・ほうじ茶の深みが一体となる。
タルト生地、ガナッシュ、ムースのようなチョコレート、バニラアイスの組み合わせが、口の中で次々に変化し、飽きることなく楽しめる一品だ。

温かいチョコレートタルト

Image 1 of 5

チョコレートの濃厚な色合いからは、甘さや苦みの強さを想像させ、食後のデザートには少し重そうに見える。しかし、その予想を良い意味で裏切る、軽やかな味わいに驚かされる。これは、糸井シェフとのコラボレーションで提供されたデザートと同じ一品だ。

3品目:洋梨のシャルロット シャンパン風味
CHARLOTTE AUX POIRES ET CHAMPAGNE, crème à la vanille, sorbet à la poire, citron vert

型に入れて冷凍したバニラムースを、薄いビスキュイアラキュイエールで包み込み、器のように仕立てる。その中に、洋梨のジュレを流し込む。
仕上げには、薄くスライスした洋梨をひねり、花弁のような形を作る。さらに、同じようにして薄い飴の花弁を混ぜ合わせることで、食感のアクセントを加える。
見た目には分からないが、梨と飴のブーケが美しく飾られ、その横には洋梨のソルベとライムの雫が添えられる。さっぱりとした爽やかさが、コースメニューのフィナーレを飾る。

洋梨のシャルロット シャンパン風味

Image 1 of 8

フランスの伝統菓子、シャルロットケーキ。しっとりサクッとしたビスキュイ生地と、さっぱりとした洋梨が織りなす爽やかなデザート。仕上げに添えられた洋梨のブーケが、華やかさを一層引き立てている。

特別なデザート体験をあなたに

もしパリに訪れる機会があれば、ぜひ竹田シェフの料理と赤澤香里さんのデザートを味わってみてほしい。その体験は、忘れられない思い出になるはずだ。
また、誕生日や結婚記念日など特別なお祝いごとにも対応しており、事前に相談すればその日だけの特別なデザートを作ってくれることもある。
さらに、香里さんは10月に東京・新宿伊勢丹のイベントに参加予定。日本にいながら彼女のデザートを楽しめる貴重な機会となる。この魔法のようなスイーツを、日本でも体験してみてはいかがだろうか。

関連記事

  1. アマン東京で味わう五島列島の夏「Isole di Goto – 五島の海の恵み」

  2. grandhyatt

    グランド ハイアット 東京のラグジュアリーなかき氷でクールな夏を

  3. クリスマスは美しい神戸の夜景を豪華クルーズで「JEWEL CHRISTMAS CRUISE」

  4. HOTEL THE MITSUI KYOTOにて貴重な「響 サントリーウイスキー100年記念-Ann…

  5. フェラーリのレストラン「イル・カヴァリーノ」がリニューアルオープン

  6. ザ・リッツ・カールトン大阪「マノロ ブラニク」監修のアフタヌーンティー開催

  7. あの割烹が『銀座 kappou ukai 肉匠(にくしょう)』にリニューアルオープン

  8. CIRPASシェフで登録者数115万人のyoutuberでもある吉田能氏と高級日本酒ブランド「MIN…

  9. 「アンリ・ジロー」×「京都蒸溜所」の 幻のジンが「ラグジュアリーカード」とトリプルコラボ

人気記事 PICK UP!

HOT TOPICS

おすすめ記事

  1. フォーシーズンズホテル丸の内東京にてトロピカルフルーツたっぷりの「アロハ アフタ…
  2. covakakuda 伊勢志摩国立公園内に誕生した体験型リトリート「COVA KAKUDA」
  3. james jarvis James Jarvisの個展「Hello Bauhaus」PARCO MUSE…
  4. shirokuramata 伝説のデザイナー倉俣史朗のデザインの先にあるものを掘り下げる「倉俣史朗のデザイン…
  5. ポールボキューズ 金曜夜は銀座でロゼ色の“ごちそう”ステーキを。「ブラッスリー ポール・ボキューズ…
  6. “食材の宝庫・長崎県五島市”の魅力を味わうフェアを東京と…
  7. 100年の時を超えて蘇ったバカラ「春海コレクション」発売
  8. アートの島に露天風呂付きの 「直島旅館ろ霞」が開業
  9. アンリ・ジャックの限定コレクション「レ・トゥピーズ」から“ファンファンとガリレオ…
  10. 時計ファンを刮目させるH. モーザーとスタジオ・アンダードッグのコラボレーション…