ボルドーやブルゴーニュと並ぶテロワールの復活

写真/文: 櫻井朋成
Photo/text: Tomonari Sakurai

最初の年、エッフェル塔の中でワインを醸造・熟成させた。エッフェル塔の1階中央にタンクが並んでいるのが見えるだろうか?※写真提供:La Bouche du Roi

ボルドーやブルゴーニュのワインといえば、フランスを代表するワイン産地として世界中に知られている。しかし、なぜ首都パリ近郊ではワイン造りが行われていないのだろうか?
歴史を紐解くと、13世紀の王フィリップ・オーギュストは、フランス各地で生産されるワインの中でもパリ周辺のワインが最も美味しいと語った記録が残っている。実は、パリ近郊もかつては優れたワイン産地だったのだ。

パリ近郊の地質とワイン造りの関係

今年のブドウの実りを良くするために剪定(La Taille)を終え、すっきりと整えられたブドウ畑。ここから枝を伸ばし、やがて実をつけていく。この一面に、たわわにブドウが実る季節がやってくるのだ。

以前、ジュラワインの話をした際に触れたが、ジュラ地方はかつて海であったため、ワイン造りに適した土壌が形成されている。同じことがパリにも当てはまる。4500万年前、パリもまた海であり、そこには1300種以上の生物が生息していた。その証拠に、古い大聖堂や城の壁をよく見ると、石の中に化石が混じっているのを発見できる。
ただし、「どこも昔は海だった」と言ってしまえばそれまでだが、氷河期の影響も見逃せない。今回訪れたドメーヌの畑は丘陵地に位置し、氷河が流動的に土地を潤し、豊かな土壌を生み出した。こうした自然の恵みにより、かつてのワイン産地が再び息を吹き返したのだ。

パリに最も近い大規模ワイナリー「ラ・ブーシュ・デュ・ロワ」

崩れた畑の壁の隙間から、西の方角をそっと覗く。その先にヴェルサイユ宮殿がある——たとえ目には見えなくとも、ここにはかつての王の視線が通っていた。「王の道」として守られたこの地は、長きにわたり余計なものを排し、視界を遮ることなく、そのまっすぐな軸を貫いてきたのだ。

そんな歴史と地質に恵まれた土地でワイン造りに成功しているのが、パリから最も近く、フランス最大規模を誇るワイナリー「ラ・ブーシュ・デュ・ロワ」だ。
このワイナリーは、もともと農作物の栽培には適さないと言われ、長らく放置されていた土地にブドウを植えたことから始まった。野菜栽培には向かない土壌が、実はブドウ栽培には理想的な環境だったのだ。そこから、ブドウに適した土地を選び、次々と畑を広げていった。
興味深いのは、古い地図を紐解くと、この土地はヴェルサイユ宮殿から一直線上にあり、18世紀当時のブドウ畑とほぼ同じ範囲にブドウ畑が再現されていることだ。つまり、この土地は昔からブドウ栽培に適した場所であり、王のために作られたワインの歴史が、フランス革命後の衰退を経て、今ここに復活したのである。

エッフェル塔で醸造されたワイン

最初の年、エッフェル塔の中でワインを醸造・熟成させた。エッフェル塔の1階中央にタンクが並んでいるのが見えるだろうか?※写真提供:La Bouche du Roi

収穫されたブドウが運ばれ、エッフェル塔の中で圧搾から醸造の作業が行われた。※写真提供:La Bouche du Roi

ワイナリーの設立に際し、「何か面白いことをやろう」という発想のもと、最初のワインの醸造はエッフェル塔の中で行われた。そのため、タンクはエッフェル塔のエレベーターのサイズに合わせて設計された。これが2019年のことだ。
ワインの発酵段階では、ほぼ毎日撹拌する必要がある。しかし、この年は新型コロナウイルスの感染拡大によりエッフェル塔が閉鎖された。逆に、そのおかげでスタッフはエッフェル塔に泊まり込み、ワイン造りに集中することができたという。
こうして生まれた「エッフェル塔のワイン」は、話題性だけでなく、「ラ・ブーシュ・デュ・ロワ」の高品質なワインとしての評価も獲得した。以来、ワイナリーではプレミアムワインの生産を続けている。

その時に使用されたタンク。エッフェル塔のエレベーターのサイズが小さいため、特注で製作されたものだ。

星付きレストランも注目するワイン

今年の最高の逸品 LA VOIE ROYALE(王の道)。ヴェルサイユ宮殿の庭園に広がるグラン・カナル。このカナルは、宮殿から眺めると夏至の日に太陽が昇る方向に設計されている。そして、宮殿からカナルをまっすぐ望むその先に、ラ・ブーシュ・デュ・ロワのブドウ畑が広がる。ヴェルサイユ宮殿とこの畑を結ぶ直線に込められた意味、それこそが「王の道」なのだ。

このワイナリーでは、栽培から醸造、瓶詰め、コルク打栓に至るまで、すべての工程にこだわり抜いた限定生産のワインを生み出している。その品質は高く評価され、アラン・デュカスやティエリー・マルクスといった名だたる星付きシェフたちが、自身のレストランで「ラ・ブーシュ・デュ・ロワ」のワインを提供するようになった。

多彩なブドウ品種とプレミアムワイン

今年のラインナップの一部。「王の道」の赤と白の隣に並ぶのは、ラ・ブーシュ・デュ・ロワが栽培から醸造まで手掛けた定番シリーズ。白はシュナン・ブラン、赤はカベルネ・フラン100%のものと、カベルネ・フランとメルローのブレンド。「Le Val du Roi(王の谷)」と名付けられたシリーズは、ブドウ農家が栽培したブドウをラ・ブーシュ・デュ・ロワで醸造したもの。今回のボトルは、ピノ・ノワールを使用したロゼだ。

ここでは、白ワイン用のシュナン・ブラン、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、赤ワイン用のピノ・ノワール、メルロー、カベルネ・フラン、コット(マルベック)など、多様な品種が栽培されている。
特に注目すべきはシュナン・ブランだ。一般的にロワール地方で栽培される品種だが、このイル・ド・フランスのテロワールでも見事に適応し、独自の味わいを持つワインが生み出されている。プレミアムワイン「LA VOIE ROYALE」では、シュナン・ブランとシャルドネをブレンドし、高品質な白ワインが作られている。

「王の道」の赤はピノ・ノワール。栽培からさらに一層手塩にかけ、収穫時には厳選した房のみを選別。さらに、発酵・熟成も専用の工程を経て造られる。ラベルのデザインは、ヴェルサイユ庭園のグラン・カナルをモチーフにしている。

ワイナリーでの体験プログラム


「ラ・ブーシュ・デュ・ロワ」では、パリから30分という近さを活かし、訪問者向けの体験プログラムを提供している。

– ブドウ畑での季節ごとの作業体験
– ワイン貯蔵庫の見学
– オリジナルブレンドの赤ワイン作り(2種類の赤ワインを学び、自分好みのブレンドを作成し、瓶詰めして持ち帰る)
パリを中心に旅行をする際、ワイナリー訪問を計画するのはなかなか大変だ。しかし、ここならば気軽に訪れることができ、かつフランス国王たちが愛した「王のひとくち」を堪能できる。

入り口には、雑誌で高評価を受けたコメントが掲示されている。

もしあなたがワイン好きなら、「ラ・ブーシュ・デュ・ロワ」のテロワールを味わいに訪れてみてはいかがだろうか?

PHOTO GALLERY

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新しく拡張した土地に、ブドウの木を植えたばかり。植えたばかりの木は、しっかりと根を張り、土から十分な栄養を吸収できるようにするため、最初の3年間は実をつけさせない。写真は、地面から約10cmほど伸びたブドウの木を添え木に寄り添わせ、固定する作業の様子。

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