技が咲くメゾン:LEONARD PARISの創造の中枢を訪ねて

写真/文: 櫻井朋成
Photo/text: Tomonari Sakurai

1958年、パリに誕生したLEONARDは、“プリントを纏う”という概念を象徴的な領域へ引き上げてきたメゾンである。創業当初から、卓越した技術を持つ職人たちと手描きの図案家が共に創り上げるプリントは、単なる装飾を超え、ブランドのアイデンティティそのものとして機能してきた。特許を取得したニット技術「Fully Fashioned(フルファッション)」や、シルクスクリーンとインクジェットによる複合的なプリント技法など、メゾンの歴史は常に技術革新と芸術性の両輪で動いてきたと言える。
今回パリ本社を訪れると、その理念が今なお精緻に受け継がれていることが、アトリエの空気そのものから伝わってきた。
クラシックな建造物の内部には、極めて現代的かつ静謐なクリエイション空間が広がり、そこで働くクリエイターは、分業ではなく“知の共有”を基盤に、ひとつの服を完成へと導いている。

デザインの原点―手描きの図案がすべてを決める


LEONARDのデザインは、まず手描きの原画から始まる。アトリエで対面したプリントデザイナーは、筆先で紙の上に花弁のグラデーションを置いていく。
一枚の花弁の中に、どれほどの階調が存在するのか。その細やかな観察から浮かび上がる色が、ブランドを象徴する柔らかな奥行きを作り上げる。
パリのアトリエでは、デザイナーたちがコンピューターと手描きの双方を駆使し、図案の構成や配色を練り上げていた。デジタルは線の調整や図案の“設計”に強く、手描きはニュアンスと呼吸を与える。両者がせめぎ合い、補完しあうことで、ひとつのプリントが生命を宿していく。
作業卓の上には、数十年前のアーカイブも整然と並んでいる。70年代のスケッチブックには、奔放な構図と当時のモデルカットが綴じられ、それらは現代のクリエイターにとって重要なインスピレーションの源となっている。過去を参照しながら現在を更新し、未来へつなぐ――メゾンにおける創造の脈動を最初に感じた瞬間だった。

ジャカード・刺繍・プリント―技術ごとに最適化される“図案の再構築”


デザイン室から上がった原画は、そのままニット・プリント・ジャカードへ落とし込まれるわけではない。
技法ごとに求められる再構築があり、それを行うのがジャカード&刺繍専門のチームである。
ここでは、原画を糸の太さや織り組織、ステッチ方向に合わせて再翻訳する作業が行われていた。プリントでは色の濃淡で表現される陰影も、ジャカードでは糸の密度や種類によって立体的に描かれる。刺繍では、ステッチの方向が光の反射を変え、モチーフにさらなる深みをもたらす。
デザインチームから受け取った配色案をもとに、彼らは糸の動きや織りのリズムを読み解き、布地の上に“図案の構造”を改めて設計する。原画のエレガンスを失わず、技法ごとの生命力を付与していく過程は、まさに高度な翻訳作業そのものだ。

パターンメイキング―イメージを服に変える“形の職人たち”


さらに印象的だったのは、パターンを担当する職人の存在である。
白いトワルをまとったトルソーに向き合い、服のシルエットを立体的に組み立てていく姿には、オートクチュールの精神が宿っていた。クリエィティブディレクターが示したイメージを、どのように形として成立させるのか。
そのために必要なのは、布が落ちる角度、肩線の微妙な傾斜、プリントの位置取りまでを読み取る高度な“目”である。
一点ものとして完成したピースは、展示会後、量産工程のための仕様へと再設計される。工業パターンメーカー室には、次のシーズンのために準備されたパターンがずらりと吊るされ、各ラインの修正メモやサイズ展開の調整表が整然と並んでいた。華やかなランウェイや店頭の裏側には、この綿密な積み重ねがある。

最後の工程―縫製、アイロニング、そして“服としての完成”


カットされた布地が縫製室へ運ばれ、熟練の手で組み立てられていく。
LEONARDのプリントは配置がデザインそのものとなるため、縫い目の合わせ方ひとつが全体の完成度を左右する。
職人は裁断線をわずかに動かし、プリントの流れが途切れないよう調整していた。
最後にアイロン工程でフォルムを仕上げると、服はようやく“LEONARD”としての表情を得る。完成したドレスをトルソーに掛け、スチームを当てる瞬間の静けさには、メゾンの矜持が宿っているように感じられた。

ブティックが語る市場ごとの感性の違い


ブティックで伺った話も興味深いものだった。
日本をはじめとするアジア圏では、黒地に花のモチーフ――いわゆる“LEONARDらしさ”を最も直感的に感じられるスタイルが圧倒的な人気を誇る。
一方、パリを中心としたヨーロッパでは、明るい地色やソフトなトーン、強いコントラストを避けた配色が好まれるという。
同じモチーフでも市場によって受け取られ方が異なり、その違いを前提にクリエーションの方向性を調整していくのも、グローバルブランドならではの視点だ。

LEONARDが守り続けるもの、変え続けるもの


私がパリ本社で目にしたのは、単なる“服作りの現場”ではなかった。
手描き原画から生まれたモチーフは、刺繍やジャカード、プリントへと翻訳され、パターンメイキングを通じて形となり、縫製と仕上げの手を経て、一着の衣服として完成する。
その一連の工程すべてに、職人の技と知識、そしてブランドの歴史が織り込まれている。
LEONARDは、過去のアーカイブを大切にしながらも、技術革新を恐れず、クリエイションの未来を切り開き続ける稀有なメゾンである。
華やかなプリントの裏側にある膨大な工程と、そこに関わる人々の情熱を知ったことで、このブランドの服を纏うことがなぜ特別なのか、その理由がより明確に理解できた。
その服は、布ではなく“時間”をまとっている――
パリでそう確信した。

GALLERY

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従来のフラットな下地を前提とする sérigraphie(シルクスクリーン) ではインクが均一に乗りにくい高テクスチャーの基布に対して、LEONARD では専用インクによる デジタルインクジェット捺染 を組み合わせている。凹凸組織の上からでも色分解どおりのトーンとグラデーションを再現できるため、立体感の強い素材であっても、レオナールらしい繊細かつ大胆なフラワーモチーフを安定して表現することが可能になっている。

櫻井朋成

写真家。フォトライター

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

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