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マンガはどこから来たのか──ギメ美術館でたどる日本の視覚文化

写真/文: 櫻井朋成
Photo/text: Tomonari Sakurai

マンガは、決して現代に突然現れた表現ではない。
ギメ美術館で開催中の本展は、その事実を、同館が所蔵するコレクションそのものによって静かに証明している。
会場では、現代マンガの原画と並び、ギメが長年にわたり収集してきた日本の版画や江戸時代の書物が展示されている。そこに示されているのは、マンガを「新しい表現」として切り離すのではなく、日本美術史の連続性の中に位置づけ直そうとする明確な意思だ。

絵巻物や版本、戯画、浮世絵。


連続するイメージによって物語を語るという構造は、すでに近世日本において確立されていた。ページをめくる行為、視線を誘導する構図、余白と線のリズム。これらはマンガ特有の発明ではなく、木版印刷や書物文化の中で洗練されてきた視覚的思考の延長線上にあることが、実物資料によって具体的に示されている。
江戸時代の書物において、文字と絵は明確に分離されるものではなかった。
文章の間に挿入される挿絵、あるいは画面の中に直接書き込まれる言葉は、読むことと見ることを同時に要求する。こうした構造は、現代のマンガにおけるコマ割りやフキダシの原型とも言える。ギメのコレクションは、その視覚的連続性を裏付ける役割を果たしている。

高度に設計された「工芸的」な制作プロセスを伴う表現


一方、展示される現代マンガの原画は、印刷物として完成したページとは異なる側面を見せる。修正跡、線の強弱、紙の質感。そこから浮かび上がるのは、マンガが高度に設計された「工芸的」な制作プロセスを伴う表現であるという事実だ。木版画における下絵と版の関係、刷りによる最終形の完成という構造とも、静かな共鳴を見せている。
19世紀後半、日本が西洋と接触し、新聞や風刺画、印刷技術が流入すると、イメージは社会的なメディアとしての性格を強めていく。「マンガ」という言葉が定着する以前から、絵による批評や娯楽はすでに広く共有されていたことが、版画や雑誌資料によって示される。
20世紀に入り、手塚治虫は映画的な視点をマンガに持ち込み、画面に時間と運動を与えた。原画展示によって、その構図や演出がいかに計算されたものであったかが、改めて可視化される。水木しげるが描いた妖怪たちは、民俗資料としての側面と、現代的な物語装置としての機能を併せ持ち、日本の古層のイメージをマンガという形式で現代に蘇らせている。

古い版画や書物と並ぶことでマンガのポジションを視覚的に理解する


こうした作家たちの仕事は、孤立した創造ではない。
ギメが所蔵する古い版画や書物と並置されることで、マンガが日本美術の中でどのような位置を占めているのかが、視覚的に理解できる構成となっている。
展示後半では、マンガが少年文化として確立し、アニメーションや商業出版を通じて世界へと拡張していく過程が描かれる。ドラゴンボールに見られる神話的構造や冒険譚は、中国古典や東アジア文化圏の物語とも響き合い、国境を越えた普遍性を獲得していく。
さらに、戦後日本の記憶を反映した終末的イメージ、巨大な存在への恐怖、崩壊する都市といった主題も、マンガという形式を通して繰り返し表現されてきた。ここでも、過去の版画や図像と現代作品との間に、断絶ではなく連続が見いだされる。

本展が示しているのは、マンガを単に展示することではない。
ギメ美術館というアジア美術の殿堂が、自らのコレクションを用いて、マンガを日本の視覚文化史の中に正確に配置し直している点にこそ、本展の本質がある。
マンガは読むものだが、同時に見る文化であり、刷られ、流通し、記憶されてきたイメージの集積である。
その長い時間の流れを、原画と古典資料の対話によって示す本展は、マンガを理解するための、極めて知的で誠実な視座を提示している。

「Manga, tout un art !」
会期:2025年11月19日 〜 2026年1月26日
会場:ギメ美術館(Musée national des arts asiatiques – Guimet)

GALLERY

049

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河鍋暁斎が得意とした戯画性と批評精神を、説話・信仰・笑いの領域に横断させて示している。神仏や妖怪、英雄譚を題材としながらも、厳粛さを崩し、人間的な弱さや可笑しみへと引き寄せる視線が一貫している点が特徴である。ここでは、物語を分解し、誇張と省略によって動きと感情を際立たせる手法が、後の漫画的表現へとつながる萌芽として浮かび上がっている。


櫻井朋成

写真家。フォトライター

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

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