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フランス菓子の頂点が子どもたちに捧げる夜

写真/文: 櫻井朋成
Photo/text: Tomonari Sakurai

Artcurial × Pierre Hermé Paris 25 Chefs Pâtissiers pour l’Enfance

ハイ・パティスリーが到達した新しい“文化”の夜。パリのシャンゼリゼ円環。その歴史をまとった Artcurial のオークションサロンに、12月の夜気とともにひとつの期待が満ちていく。Pierre Hermé Paris と Artcurial が主催する、フランス菓子史上初のハイ・パティスリーによる慈善オークション。
この場に、およそ「現在の高級菓子」を定義する25名のパティシエたちが集結した。

美食が、贅沢が、アートが、その本質に返る瞬間

ひとつひとつの作品は、ショコラの彫刻、光を取り込む写真作品、抽象絵画、ウェディングケーキの手描きデッサンに至るまで多様でありながら、いずれも“食”を超えた美の領域**に位置づけられている。収益はすべて、白血病を患う子どもたちへの支援団体「BAB Charity」に寄付され、パリ・トゥルソー病院の無菌室や家族スペースの改修などに充てられる。美食が、贅沢が、アートが、その本質に返るのは“誰かのために創造する”という瞬間である——そのことを静かに体現する、稀有な夜である。

美食の造形者たちが示す「最高峰のクラフツマンシップ」

この夜、サロンに顔を揃える25名のパティシエは、それぞれが異なる物語とスタイルを背負っている。

構築美で魅せるルロワのショコラタワー


たとえば、Lenôtre を率いる世界チャンピオン、エティエンヌ・ルロワは、ギフトボックスを積み上げたショコラのタワーで、冬の祝祭を精密な構築美へと昇華させる。

物語を見せるマシュマロ・オルソンのピラミッド


一方、テレビ番組『Le Meilleur Pâtissier』でおなじみのシリル・リニャックは、85個ものマシュマロ・オルソンを積層したピラミッドと、番組収録の舞台裏へ招かれる特別な体験を組み合わせ、スターシェフならではの“物語としてのデザート”を用意している。

彫刻作品にオマージュを捧げる重厚なチョコレート像


フォンテーヌブローのフレデリック・カッセルは、モントリオールのショコラティエ、クリストフ・モレルとともに、彫刻家ポンポンのオランウータンにオマージュを捧げる重厚なチョコレート像を出品する。

テクスチュアとして手仕事の知性を作品化

宴の記憶を封じ込めた精密なデッサン


ウェディングケーキの第一人者バスティアン・ブラン=タイユールは、建築図面のような精密さで描かれたケーキのデッサンを披露し、幾世代にもわたる宴の記憶を紙の上に封じ込めてみせる。

バロック調のアンティーク家具をチョコレートで再構築


リヨンのセバスチャン・ブイエが選んだのは、アンティーク家具を思わせるライオンのテーブルをチョコレートで再構築したバロック的作品だ。

現代ショコラの美学を描く


La Maison du Chocolat のニコラ・クロワゾーは、77個のショコラボックスを立体的に積み上げ、色面と線のリズムだけで「現代ショコラ」の美学を描き出す。

本物と同じ精度で削りだされたショコラの懐中時計


ペニンシュラ・パリのアンヌ・コルブルは、アンティークの懐中時計をモチーフに、オートオルロジュリーと同じ精度でショコラを削り出し、時間そのものを甘美なオブジェに変える。

静謐な森の気配を映す3つのショコラパネル


自然と詩情を愛するヤン・クヴルーは、メゾンの象徴であるキツネのシルエットを抽象化した三連のショコラ・パネルで、静謐な森の気配を表現する。

中毒性のある美味しさをビジュアル化


世界最年少でパティスリー世界チャンピオンとなったジェローム・ド・オリヴェイラは、自身の代表的なタブレットを無数に重ね、ひとつのキャンバスの上で“中毒性のある美味しさ”を視覚化するような作品を作り上げた。

アラン・デュカスのレシピと哲学を体験

料理の領域からは、エコール・デュカスを支える二人のシェフが参加する。ルカ・カリオーニは、パリ・スタジオでのクッキングクラスを通じてアラン・デュカスのレシピと哲学を体験させる機会を用意し、ギヨーム・カトラはメドンのキャンパスにあるレストラン「Adour」での5品構成“Menu Harmonie”で、建築とガストロノミーが響き合う一夜を約束する。

クラシックなエスプリで魅せるショコラ彫刻


ラウラン・デュシェーヌは、妻の京子氏とともに培ってきたクラシックのエスプリを、冬のオブジェのようなショコラ彫刻に凝縮する。

知のラグジュアリーを与えるミニマルフォト


写真家ラウラン・フォーは、フォークのシルエットをミニマルに捉えた一枚を出品し、高級ホテルのスイートにふさわしい静かな緊張感を写し取ると同時に、ビューティーあるいはフード・フォトグラフィーのマスタークラスという“知のラグジュアリー”を添えている。

ピエール・エルメの世界観を二重に体験


セドリック・グロレは、巨大なパン・オ・ショコラの写真作品と、パラスホテル、ル・ムーリスでのティータイムを組み合わせ、世界で最も影響力のあるパティシエの世界観を二重に体験させる。

手作業で彫られた精密なF1マシン


ナントのヴァンサン・ゲルレは、F1マシンを一台まるごと手作業で彫り上げたショコラの彫刻で、“カカオ工房”Cacaofacture の技術力を余すところなく見せつける。

職人業の凄みをSNSを通じ五感で体験

SNS時代を象徴するアモリー・ギションは、ラスベガスのアカデミーとショコラ・ミュージアムへのプライベート訪問を出品し、数億回再生される映像の裏側にある驚異的な精密さと職人性を、五感で感じさせようとする。

物語の中心となるのはピエール・エルメの芸術的ショコラ


そしてもちろん、このオークションの中心にはピエール・エルメがいる。《Be different》と題された作品では、495個のショコラ卵を緻密な秩序の中に配し、そのただ一カ所だけ、Daum のクリスタル製の卵が静かにきらめく。第二の作品《Abysses》は、海溝のような深みとショコラの芳香を重ね合わせた彫刻的なデザートであり、そこから派生する“チョコレートだけの晩餐”という特別な夕べへと、ゲストを誘う。

ジャン=ポール・エヴァンのカメルーン産カカオだけで構成されたデギュスタシオン

ジャン=ポール・エヴァンは、写真家ダヴィド・シルヴァによる Caraïbes の抽象写真とともに、カメルーン産カカオだけで構成されたデギュスタシオンを用意する。

味の世界観と遊び心が詰め込まれたボード


アルノー・ラルフは、自身の名をかたどったタイポグラフィの作品にチョコレートを詰め込み、味の世界観と遊び心をそのまま一枚の“ボード”に映し取る。

素材と感性が交差する“パリ菓子”を体験

世界最優秀パティシエの称号を得たニナ・メタイエは、Issy のラボでのプライベート・レッスンと試食を通じて、素材と感性が交差する現在進行形の“パリ菓子”を体験させる。

ショコラの卵を割るという体験型の提示


クリストフ・ミシャラクは、4キロものショコラで成形された巨大な卵を出品し、“割る”という行為そのものを体験型の贅沢として提示する。

ダロワイヨを支えたパティシエ、パスカル・ニオーが描く甘美の寓話


ダロワイヨを長年支えた芸術家パティシエ、パスカル・ニオーは、《Princesse de rêves》と題した絵画作品で、甘美の寓話をキャンバス上に描き出す。

チョコレートを永続性を持つ彫刻作品へ


そして後半には、ショコラを素材とした彫刻で知られるパトリック・ロジェも名を連ね、チョコレートというはかない物質を、永続性を持つ彫刻作品へと変換する試みを続けている。

こうして25名のパティシエたちは、それぞれの流儀で「ショコラ」「ガストロノミー」「教育」「写真」「絵画」といった異なるメディウムを横断しながら、ハイ・パティスリーを“文化”の次元へと押し上げていく。

フランスが長年育ててきた菓子文化の到達点ともいえる美が、一堂に会した日

ハイ・パティスリーは、今や“食のラグジュアリー”を超えた文化である。この夜 Artcurial に並ぶのは、単なるスイーツではない。クラフツマンシップ、サヴォワールフェール、アートピース、そして慈善という精神。フランスが長年育ててきた菓子文化の到達点ともいえる美が、一堂に会す希少な機会だ。Pierre Hermé が語るように、「歓びを届ける芸術としてのパティスリー」。その言葉が現実の風景となった場所に立つことは、フランス文化が持つ“美の倫理”を改めて知る瞬間である。

ピエール・エルメ × アーキュリアル チャリティーオークション 2025
25 chefs pâtissiers s’engagent pour l’enfance
2025年12月1日(月)20時(パリ時間)
アーキュリアル(Artcurial)本社
7 Rond-Point des Champs-Élysées, 75008 Paris

GALLERY

02

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いくつかに分かれた展示室のうち、パティシエ作品の最初のサロン中央には、La Maison du Chocolat(ラ・メゾン・デュ・ショコラ)を率いる Nicolas Cloiseau(ニコラ・クロワゾー)の作品が静かに据えられている。77個のショコラボックスを幾何学的に積層した構成は、光を受けて微妙な陰影を生み出し、ブランドを象徴するブラウンのパレットが、まるでモダンアートのレリーフのように空間を引き締めている。カタログ上の開始価格は4,000ユーロ。 その奥、床に低く構えたテーブル状の台座には、Pierre Hermé(ピエール・エルメ)による《Be different》が広がる。495個の卵形ショコラを緻密なグリッド状に並べた立体作品で、完璧な対称性の中に、秩序と規律、そして官能性が共存している。整然と並ぶ滴形のショコラは、視点のわずかな移動とライティングの変化によって表情を変え、数学的な均整の内側に潜む揺らぎを際立たせる。透明なケースの下には Maison Daum(メゾン・ドーム)のオブジェと白い羽根が幾重にも散り敷かれ、重厚なショコラの質感と対照を成しながら、作品全体に祈りのような静けさを与えている。無数の卵の中にひとつだけ配された特別なピースが、“違うこと=Be different”であることの価値をそっと示唆するようだ。こちらの開始価格は10,000ユーロに設定されている。

櫻井朋成

写真家。フォトライター

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

フランス在住。フォトグラビュール作品を手がける写真作家。
一方で、ヨーロッパ各地での撮影取材を通じて、日本のメディアにも寄稿している。

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