東京国立近代美術館では、2022年11月1日〜2023年2月5日まで、「大竹伸朗展」を開催します。2006年に東京都現代美術館で開催された「全景 1955-2006」以来となる大規模な回顧展で、1982年の初個展から40周年となる今年、約500点の作品を一挙に見られる特別な機会となります。
《残景 0》 2022年 Photo:岡野圭
本展では、2019年以降、大竹が取り組む「残景」シリーズの最新作〈残景 0〉(2022年)が初公開されます。あわせて本作の制作過程を追った「21世紀のBUG男 画家・大竹伸朗」(BS8K、2022年6月放送)を会場内で上映予定。大竹の創作の現場に初めて密着した貴重なドキュメンタリーです。
ジャンルを越えて精力的に創作し続ける大竹伸朗
大竹伸朗は1955年に東京で生まれ、1980年代初頭より、絵画をはじめ、音や映像を取り込んだ立体作品などを手掛けてきた日本を代表するアーティストです。また現代美術のみならず、デザインや文学、エッセイなど多くのジャンルで活躍しています。88年に愛媛の宇和島へ移住し、以後活動の拠点としています。代表作に、直島にオープンした公共浴場の〈直島銭湯「I♥湯」〉(2009年)があり、近年では、ドイツで5年に一度開催されるドクメンタとヴェネチア・ビエンナーレの二大国際展に参加し、海外でも高い評価を得ています。また国内でも「東京2020公式アートポスター展」への参加、「道後温泉本館」の保存修理の際の工事現場を覆う巨大なテント幕作品〈熱景/NETSU-KEI 〉の公開など、現在も精力的に活動を続けています。
創作活動を俯瞰できるユニークな構成
本展では、最初期の作品から、近年海外で発表した作品、コロナ禍に制作された最新作まで、およそ500点の作品が一堂に会します。小さな手製本から小屋型のインスタレーション、作品が発する音などを7つのテーマ「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」に基づいて構成していきます。作者が「既にそこにあるもの」と呼ぶテーマのもとに半世紀近く持続してきた制作の軌跡を辿るとともに、時代順にこだわることなく、大竹作品の世界に没入できる展示によって、その創作エネルギーを体感できるでしょう。
テーマはそれぞれが独立するのではなく、重なり合いゆるやかにずれながらつながっていき、大竹作品の世界観を表現します。まず「自/他」は、自画像やこれまで大竹を形成してきた人物や風景などのイメージがずらりとひしめく壁で始まります。大竹は「全く0の地点、何もないところから何かをつくり出すことに昔から興味がなかった」と語り、大竹の表現は「既にそこにあるもの」と呼ぶ他者との共同作業であり続けてきました。9歳の頃の作品から近年の大作〈モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像〉(2012年)まで、大竹の創作活動の歳月を凝縮したセクションです。
《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》 2012年 Commissioned by dOCUMENTA(13) Photo:山本真人
〈モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像〉は2012年のドクメンタで発表され現地で好評を得た作品で、関東では初めて公開されます。ネオンサイン、トレーラー、舟、ギター、映像、巨大なスクラップブックなど、ものと音が凝縮された小屋型のインスタレーションです。
「自/他」は「記憶」へと続きます。変容する自己をつなぎとめるのは記憶です。ゴミとされるようなものに至るまでありとあらゆるものを貼り付け、作品にとどめていく大竹の制作は、それ自体が忘却に抗う記憶術だといえるでしょう。その作品が喚起する光景は、大竹個人の記憶にとどまらず、物質に刻まれた記憶の可能性をも問いかけるものです。大竹にとって「記憶」とは、そのときどきによって形を変えるもので、「時間」も素材のひとつです。
「時間」のセクションでは30年という時間をかけて変化した素材を用いた作品や、30分間で描きあげた作品などを紹介します。時間は拾い、集め、貼り合わせることにより厚みを増す材料であり、ときには偶然を呼び寄せてくれる道具でもあるのです。半世紀近い活動を通じて作品の中に折りたたまれた「時間」は、大竹自身の様々な場所への移行によって彩られています。「移行」のセクションでは、世界や日本の各地から集めたローカルな図像が現れます。模写や切り貼りによって、元あった場所から転移させることで作品を成立させる大竹にとって、「移行」とは作者の身体的な移動だけでなく制作方法をも意味しています。
《ミスター・ピーナッツ》 1978-81年 個人蔵
「移行」という制作方法を、物質的ではないやり方で試みたのが「網膜」シリーズです。捨てられたポラロイド写真が、漫然と思い描いていた夢のようなイメージを忠実に再現していることに気づいた大竹は、その上に透明な樹脂をのせました。樹脂の質感と写真の色彩は独立したまま重なり、見る者の網膜や脳内で場所を移し、混ざり合うことで作品が完成します。「夢/網膜」においては実体のないイメージの重なりを表現しましたが、「層」セクションでは、印刷製本技術の粋を凝らした豪華本やカラーコピーを編集して綴じた手製本が紹介されます。
《網膜 (ワイヤー・ホライズン、タンジェ)》 1990-93年 東京国立近代美術館
会期中は東京国立近代美術館が「宇和島駅」に
宇和島駅舎のリニューアルにともない駅名の古いネオンサインをもらい受けた大竹は、これまでも個展開催の度に会場となる美術館にそのネオンサインを作品として設置してきました。本展会期中、東京国立近代美術館のテラスには〈宇和島駅〉(1997年)のネオンが輝くのも本展の見どころのひとつです。
《宇和島駅》 1997年 Photo:岡野圭
また本展のために製作されたグッズも多数販売されます。スナックの看板をモチーフにした代表作〈ニューシャネル〉(1988年)をはじめとした“大竹文字”Tシャツなどのほか、オリジナルの新しいグッズが登場します。日テレゼロチケとローソンチケットでは、特製コインケースが付いたグッズ付きチケットも販売中。数量限定ですのでお早めにお求めください。
《ニューシャネル》 1998年
「大竹伸朗展」
場所:東京国立近代美術館
日程:2022年11月1日(火)-2023年2月5日(日)
時間:10:00―17:00(金・土は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(1/2、9は開館)、年末年始(12/28-1/1)、1/10
https://www.takeninagawa.com/ohtakeshinroten/
愛媛美術館:2023年5月3日(水・祝)〜7月2日(日)
富山美術館:2023年8月5日(土)〜9月18日(月・祝)予定