2018年のブランド創業以来、「100年誇れる1本を。」をテーマに、最高峰の日本酒を世に問うてきた「SAKE100」。今年、全面的なリブランディングを実施し、新たに「SAKE HUNDRED」として生まれ変わった背景にある思想と今後の展望について、ブランドオーナーの生駒龍史さんに話を伺った。
ラグブロ。編集部(以下編集部):いま日本酒が世界的にブームとなってきている中で、「SAKE HUNDRED」のフラッグシップ商品「百光(びゃっこう)」が海外で最も歴史ある日本酒品評会、2020年度全米日本酒鑑評会で金賞を受賞されましたね。
生駒龍史さん(以下、生駒):大変ありがたいことに、百光は多くのご注文をいただき、発売から3日で完売となりました。香りが強すぎず、非常に上品な吟醸で、精米歩合18%とかなり磨いているので、雑味がまったくなくてシルキーな口当たりが特徴となっています。日本酒の旨味、余韻、口当たりなど、お客様の体験する要素が多い、奥深い仕上がりが人気の秘密でしょうか。
そのお陰もあって、これまでワインコンペティションでも受賞していたのですが、今回の全米日本酒鑑評会での金賞受賞という栄誉に与かりました。イギリスとフランスのコンクールでの2冠に次いで、ついにアメリカでも賞を得たことは、本当に喜びに堪えません。
編集部:後味も余計な雑味がなくて、口中に漂う残り香をずっと楽しんでいられます。
生駒:まさに余韻ですね。余韻の長さと美しさは、まさに「百光」ならではのもの。そうした海外での高い評価もあって、もともと16,800円で販売していたものを、2020年8月のリブランディングに伴って27,500円に変えました。中身が変わっていないのに、1万円も値上げをしては売れないのでは? と思われるかもしれませんが、実際はまったく逆でした。もともとコアなファンのお客様から安すぎると言われてきましたので、新しい価格でもすぐに受け入れられました。リブランディング後、3日で完売となったのです。いまでは社員でも、なかなか飲むことができませんよ。
編集部:「SAKE100」がなぜ「SAKE HUNDRED」に生まれ変わったのか、その背景と理由を教えていただけますか?
生駒:背景としては、我々は「SAKETIMES」という日本酒メディアの運営も手がけているのですが、現在日本にはおよそ1,500の酒蔵があると言われていますが、毎月3社くらいずつ閉業しているんです。若者のアルコール離れに少子高齢化。量を飲む時代の終焉など、日本酒を取り巻く環境は厳しさを増すばかりです。そうした中で、どうやって単価を上げて世界ブランドにするか。機能的価値でなくて情緒的価値をどう提供するかを、真剣に討議し、考えました。舌だけでなく目も肥えた「本物の分かる」方たちに、心を豊かにする価値を提供していこう、そう覚悟を決めたのがきっかけです。見込は間違ってはいないはずです。おかげさまで、10月の売上は2億円を超え、引き続き順調に成長しています。
編集部:それはすごい。長いこと斜陽と言われていた日本酒も、目を海外に向けてワインのブランディングを参考にすれば、新たな可能性があるはずと聞いたことがあります。
生駒:なぜワインが世界で評価されているのかは、意識していますし参考にもしています。売るための構造的にも、見習うべきところが多い。とはいえ、我々の目指すところはあくまで日本酒の王道であり、日本酒の最上級です。そうすると、ただワインを真似るのではなく、日本酒としての考え方で、ボトルやパッケージも見直さなければいけませんでした。
「SAKE HUNDRED」のボトルは、「ワインボトルですか?」とよく聞かれるのですが、これも日本酒のボトルなのです。探せば、こんな素敵なものがあるんです。新たに採用した菱形のラベルも特徴的に映ると思いますが、なぜ菱形かというと、日本の吉祥文様で縁起のいい形なんですね。ラベルの白はお米の色であり、清酒の透明感のメタファーでもあります。お客様の人生にいいことが起きてほしいと心から願ってお酒をつくっているので、縁起のいい形でお客様にお渡しするというのが、我々にとっての誠意の表現になるのです。
編集部:「百光」という名前にも、意味があるのですよね?
生駒:日本酒業界の未来を明るく照らしていきたいというのが内側に秘めた想いとしてある一方で、お客様にとっての100年先まで照らしていきたいという願いも込めた名前です。なぜかというと、選りすぐりのお酒というものはギフトで贈られることが多いから。大切な人に誕生日などの祝いで贈るとしたら、縁起のいいものにしたいと考えたんです。それこそが情緒的価値ですよね。そこをどこまでやりきれるかを、一切の妥協なしにとことん追求しました。
編集部:レストランでいただく料理と一緒ですね。皿への盛り付けも含めたプレゼンテーションと、あの空間があっての喜びという点において。
生駒:まさにそれが情緒的価値ですね。まず、見た目で美味しいという価値です。中身が美味しいのはもう当たり前で、別の部分でどこまで豊かにできるか。飲めば美味しいというのは、五感あるうちのわずかに味覚だけの話ですよね。手で瓶を持った時の質感とか、見た目とか、他の五感で感じる要素が増えれば、感動も増えます。最高峰を目指すなら、外装も絶対に手を抜いてはいけない。考え切らなければいけないと信じています。
日本酒の場合、これまでつくり手にもボトルの内側、つまりお酒そのものに詳しい人は多くいました。水のこととか麹のこととか。でもお客様はまず、瓶を手にとって外側からそのお酒の世界に触れるのですから、味以外の部分も中身に負けないくらいにもっと頑張らないといけないんです。我々はそこを、比べる相手がいないくらいのものをつくり続けています。その努力も、お客様に評価いただけているのではないでしょうか。
編集部:生駒さんの背景についてお聞かせいただけますか?
生駒:僕は酒蔵に生まれ育ったわけでもなく、ただ好きから始まって、独学でやってきました。「SAKETIMES」の取材を通じて全国の300以上の酒蔵を自分の足で訪ねて、3,000銘柄以上を実際に飲んで勉強してきました。好きから始まった素人だったからこそ、日本酒業界の慣例に縛られず、客観視のもとに新たな価値を見出せたのだと自負しています。業界の当たり前を知らないのが自分の強みだと考え、そこを意識してやってきました。
先ほどは「百光」というメイン商品についてご紹介しましたが、リブランディングのタイミングで出した新商品の「思凛(しりん)」というお酒は、これまでの日本酒の常識では考えられなかった商品です。
こちらも精米歩合18%でかなり磨いているのですが、さらに北海道産のミズナラの樽に9日間漬け込んだ、オーク貯蔵のお酒となっています。高精白の日本酒では普通、透明感を損ねるのでやらないことをあえてやることで、日本酒の新たな扉を開く奥深い味わいを実現させたのです。
編集部:これは美味しい。旨味の余韻がさらに深い。9日間、オーク樽に寝かせるというのは、さぞかしいろいろ試行錯誤された結果なのでしょう?
生駒:そうですね。口に含んで初めてオークのニュアンスを感じるちょうどいい塩梅として、行き着いた貯蔵時間が9日間だったのです。ややスパイシーさもあるので、料理との相性は抜群です。それも日本料理だけではなく、フレンチにも、特に肉料理との相性がいい。「百光」もそうですが、程よい酸味があるので、お肉がより美味しくなるんですね。実際、洋食のシェフの方たちからの評価がすごく高いですね。グローバル基準に合わせられるお酒だと。我々の目論見でもあるのですが、日本酒もこれまでのようにお鮨との相性を考えるよりも、むしろフレンチやイタリアンに合わせることを考えた方が、世界市場も含めたマジョリティのお客様にアピールできると。そうしたお酒なので、すでにアマン東京などで取り扱っていただいています。つい先日も、ペニンシュラ東京でイベントがありました。1人5万円のイベントが、2日で完売しました。
編集部:そして「天彩」というこちらのお酒も、これまでに飲んだことのない濃密な味わいでした。
生駒:「天彩」は、日本酒の常識を覆すデザート酒です。食事の最後に召し上がっていただきたい甘美な味わいで、仕込み水の一部に前の年につくられたお酒を使用することで、独特のとろみのある仕上がりになります。そのままでももちろん、ロックでも炭酸で割っても美味しいですね。実はコーヒーとも合います。ペニンシュラ東京のイベントの時には、シェフが天ぷらと合わせてくれたのですが、それも素敵な楽しみ方でした。
編集部:さて、最後に飲ませていただいたのがヴィンテージ日本酒の「現外(げんがい)」です。ウイスキーのような深い色合いと優美な香りで、同じ日本酒でこんなに異なる仕上がりにもなるのかと驚きましたが、165,000円という価格を聞いてさらに驚きました。
生駒:1995年ヴィンテージです。阪神淡路大震災の時に倒壊した兵庫県の蔵から酒母を搾り、長い復興の時を超えて熟成させた稀少な1本です。この深い飴色は、メイラード反応といって、糖とアミノ酸が結合することから生まれます。ウイスキーが好きな人や、シェリー酒を飲まれる方が、興味を持ってお求めになられるケースが多いですね。
先日、ドバイの「ZUMA」という高級レストランのソムリエがこの「現外」を飲まれて、「16万円でも安すぎる」と驚かれていました。「150万円のワインを飲んだ時の感動があった」と。味わいは年々変化していくので、それに合わせて価格もあげていくつもりです。上立ち香は非常に特徴的で、複雑かつ芳醇。味わいは酸味、旨味、甘味、苦味が渾然一体となって絡み合っています。酸味、旨味、甘味、苦味が渾然一体となって複雑に絡み合っています。また、とても個性的な味わいですが、ペアリングによってさらに奥深い表情を見せてくれます。ただしこのお酒をつくるのには、適切な環境での長期熟成が必要です。それもあって、大変貴重な銘柄となっています。
編集部:日本酒は新鮮なのが一番で、寝かせられないからヴィンテージワインに太刀打ちできないと聞いたことがありました。
生駒:難しいけれど、寝かせられるんですよ。そして、寝かせた方が美味しくなるものもあるのです。業界の中に、日本酒はこうあるべきだという既成概念があって、そこからなかなか抜け出せなかっただけなんです。
編集部:ヴィンテージ日本酒という新ジャンル。こういう美味しさがあったのかと、目からウロコの発見でした。
生駒:百聞は一飲にしかず、ですね。
編集部:4つの銘柄、みんな違ってみんないい。甲乙つけられないですね。
生駒:海外の方に紹介する時に、似たりよったりのものを持っていってもつまらないじゃないですか。全部に際立った個性がある。どれも米と水と麹でつくられていて、でもこんなに変わるんです。そしてそれぞれに美味しい。日本酒のロマンチックな部分なので、そこをどう海外の人に伝えていくかが課題です。いまはドバイとシンガポールに輸出が決まっていて、香港も決まりそうなタイミングです。香港、ドバイ、シンガポールはマーケットの質がいい。そこからアジアに普及していくので、ラグジュアリーマーケットのど真ん中にしっかりと我々の旗を立てていって、世界中に広げていきたいですね。
編集部:「SAKEHUNDRED」のお酒は、銘柄によって異なる酒蔵さんとつくるという点も新しいですね。
生駒:「百光」と「思凛」は山形で、「現外」は兵庫で、「天彩」は奈良で、というように、つくりたいお酒のコンセプトありきで、パートナーとなる蔵を探しました。
編集部:酒蔵の個性を知り尽くした、生駒さんの目とデータベースがあってこその取り組みですね。
生駒:「SAKETIMES」を通じて得た知識とコネクションが実を結びました。でも、最高峰のものを世に出していこうと思うと、世界で一番この蔵がいい! というところじゃないと実現できません。そこはすごく大事にしています。一切妥協しません。せっかくつくっていただいたとしても、もし出来たお酒がそこそこしか美味しくなかったら、そこは売らないというジャッジをします。そういうリスクがあるので、本当に吟味に吟味を重ねて酒蔵を選びますし、事前のやりとりやチェックは徹底させています。蔵の設備や従業員の活力、経営者のビジョンやマインド、どういうエリアでどういう水を使っているかなど。その辺りのこだわりは一切手を抜きません。
編集部:まだデビューから3年目ですから、スピード感のある実力勝負でしたね。
生駒:Clearは外部からの資金調達を行っていますが、投資家やVCへのプレゼンテーションでも「とりあえず飲んでくれ」と。強気です。結局みんな「美味しい!」となります。プロダクトへの絶対的な自信と情熱があります。熱意とプロダクトへの想いが、僕らの一番の強みですね。
編集部:販路もブランドサイトだけと?
生駒:そうです。取扱いや保管方法に確証が持てないところでは販売できませんから。いまは注文があると、蔵から直送しています。商品を送るときは、一緒にケアガイドを送って、貯蔵方法や飲み方などについてもフォローしています。
編集部:素晴らしいですね。それぞれお勧めの温度もあるのでしょうか?
生駒:基本的には5〜10度で冷やして飲むのが美味しいでしょう。
「天彩」や「現外」も温度変化も楽しめるお酒で、常温でも美味しいですよ。また、お猪口よりもワイングラスをお勧めしています。ワイングラスでないと、香りを充分に楽しめません。どれだけ香りを開かせたいか、どのくらい口に入れたいかでサイズや形が変わってきます。「百光」には小ぶりのワイングラスを使ってもらえれば美味しく召し上がっていただけると思います。
編集部:それも既成概念を覆していますね。最後に、これからの季節に合う食べ物との合わせ方も教えていただけますでしょうか?
生駒:お酒はオールシーズン対応です。これからの季節なら、和食なら鍋とか、洋食ならカルパッチョにも合いますね。ぜひこれまでの日本酒の既成概念を捨てて、「SAKE HUNDRED」のお酒を試していただければ幸いです。
SAKE HUNDRED https://sake100.com/