ジュラワインの薦め

ヴァン・ジョーヌの最高峰、シャトー・シャロン。それは、この村シャトー・シャロンで生産されたものだけに与えられる称号。中世で時が止まったかのような雰囲気を漂わせる、ジュラ地方の小さな村。

ワインは飲むだけでなく、少し知識を付けることでさらに楽しめる。行きつけのレストランやワインバーで、ソムリエと話しながら覚えていくのも良い。ワインに関する本や雑誌も多く、最近では漫画やネットの番組を通じて学ぶ方法も増えた。入門用の書籍を手に取れば、ボルドーやブルゴーニュ、シャンパーニュ地方やアルザス、ローヌ地方など、主要な産地が紹介されている。ブドウの品種ではピノ・ノワールやソーヴィニヨン、メルロー、シラーといった馴染みのある名前が並ぶ。しかし、フランスのワインの中でもあまり知られていない地方がある。それがジュラだ。

ジュラの宝物、個性輝く黄色いワインの世界

2024年は雨が多く、雹の被害も深刻で、生産量は大きく減少。これは、その刈り入れの風景。

ジュラ地方はブルゴーニュの東隣にあり、スイス国境に近い地域だ。ジュラ山脈に名を由来し、その名前から恐竜時代を連想する人も多いだろう。かつては海だったこの地は、大陸移動と地殻変動によって独特の地形と土壌が形成された。ジュラの土壌はミネラルが豊富で、この地ならではのブドウ品種を育む要因となっている。
標高が高く、冬は雪に覆われるジュラ地方では、かつて冬を乗り越えるために保存食が作られてきた。保存食の発酵や熟成の技術は、やがてこの地独自の食文化を育み、ワイン作りにも影響を与えた。ジュラワインには、他の地域にはない特徴的な種類がいくつかある。

シャトーシャロンの中には現在では栽培されていない品種も保存を兼ねて栽培される村のブドウ畑がある。そこに実ったプルサール種。

まず、ジュラ地方原産のプルサール。皮が非常に薄く、赤ワインでありながら淡い色合いが特徴だ。軽やかでフルーティな味わいは、ジュラの名物コンテチーズやモルビエチーズ、あっさりした赤身肉の料理にもよく合う。

畑から摘み取られたサヴァニャン種を絞り器に入れている。ここでブドウのみを繋ぐ小さな枝、梗を取り除く除梗、果汁を搾りやすくする為に果皮を傷つけ破る破砕。そして果汁を搾り出す圧搾作業をする。

次に、ジュラワインの個性を決定づける品種、サヴァニャン。ジュラ地方特有のヴァンジョーヌ(黄色いワイン)はこのサヴァニャンから作られる。ヴァンジョーヌは特殊な製法で作られる。白ワインと同様に仕込みを始めるが、樽で熟成させる際に10cmほど空間を作って蓋を閉める。通常のワインでは酸化を防ぐために空気を遮断するが、ヴァンジョーヌでは敢えて空気に触れさせる。樽内で発生する酵母菌の膜「ヴェール」が熟成を促し、独特の風味を生み出すのだ。最低6年3ヶ月熟成させて初めてヴァンジョーヌと呼ばれる。

ヴァン・ジョーヌの熟成は、一般的なワインとは異なり常温で問題ない。それ以上に重要なのは、表面の酵母菌を適度に活性化させるため、空気の流れを保つこと。そのため、カーブの窓は常に開けられている。

シャトー・シャロンの村には、多くのワイナリーが点在。この地で生産されるのは、シャトー・シャロン(ヴァン・ジョーヌ)をはじめとする、ジュラ地方ならではの個性豊かなワイン。

シャトー・シャロンの村では、毎年シャトー・シャロン(ヴァン・ジョーヌ)が奉納される。こちらは1861年のもの。特別に見せていただいた。

ヴァン・ジョーヌの熟成過程を示すために特別に作られた展示用の樽。特徴的なのは、約10cmほどの空気の隙間があることで、その表面には「ヴェール」と呼ばれる酵母菌の膜が形成される。この状態で6年3ヶ月熟成されたものだけがヴァン・ジョーヌと呼ばれる。使用されるブドウはサヴァニャン種のみで、厳格に管理されている。熟成の過程で内容量は約38%減少するため、ヴァン・ジョーヌのボトル容量は750mlではなく620mlに定められている。

ヴァンジョーヌの代表格として名高いのが、シャトー・シャロン村で生産されるものだ。この村の名前を冠したヴァンジョーヌだけが「シャトー・シャロン」を名乗ることが許されている。黄金色に輝くヴァンジョーヌは、焦がしたナッツやスパイスのような香りと深い味わいが特徴。熟成されたコンテチーズとの相性は抜群で、互いの美味しさを引き立てる。さらに、濃厚なブレス鶏のフリカッセなどともよく合う。瓶詰め後も50年、100年と熟成に耐え、風味が一層深まると言われる。

ジュラの宝石、ヴィン・ジョーヌの名門

シャトー・シャロンにあるドメーヌ・ベルテ・ボンデ。そのカーブで熟成具合を確認する場面。使用したカメラはモノクロ専用のLEICA Q2 Monochrom。

現在のドメーヌ・ベルテ・ボンデの当主、エレンさん。生産量は少ないものの、ブドウの出来はまずまず。発酵によってアルコールに変わる糖分をチェックしている様子。ブドウが甘すぎるとアルコール度数が高くなりすぎ、風味が損なわれてしまう。

農学修士を持つのベルテ・ボンデ夫妻は1984年にシャトー・シャロンに移り住み、1985年に初めての収穫を行う。ラヴィニー村やルヴェルノワ村の周辺の畑を合わせて15haを所有。現在娘のエレーヌが中心となってワイン造りが行われている。

ジュラワインの中心地、アルボワ

ジュラワインの中心地であるアルボワ。この地はワインの生産量が多いだけでなく、ルイ・パスツールの研究所があったことで特に知られている。彼はアルコール発酵の謎を解き、低温殺菌法を生み出した。この成果により、長年勘と経験に頼っていたワイン作りが、科学的に安定して行えるようになった。その功績から、パスツールはワイン作りの神様として敬われている。

アルボワで秋に行われる収穫祭「Fête du Biou」。その年に収穫された最初のブドウで作られた大きな房を、選ばれた4人の担ぎ手が手にし、街を練り歩いて教会に奉納する。この祭りは中世から続く伝統的な儀式であり、UNESCOの無形文化遺産への登録が決定している。

アルボワの教会に到着すると、大きな房は吊り下げられ、司祭によって儀式が執り行われる。

Fête du Biouの後、市役所で行われる関係者招待の昼食会で振る舞われるワインはもちろんジュラワイン。アルボワで生産されたサヴァニャン種の白ワインと、プルサール種の赤ワインが提供された。

フランス東部、ジュラ地方に位置するアルボワ市は、ジュラワインの中心地として名高い街。豊かな自然と長い歴史に彩られたアルボワは、ワイン愛好家や歴史探訪を楽しむ人々にとって、魅力的な街なのだ。

ジュラワインの街アルボワのパティスリーでは、ワインボトルのコルク栓の形をしたお菓子が人気。

ジュラ地方で最も若く、規模の小さなワイナリー「Les 5 WY」。ワインへの情熱を持ち、丁寧に作られたそのワインは、設立初年度から高い評価を受け、一躍人気となった。しかし、生産量が少ないため、入手は非常に困難。

ジュラ地方の中でも、アルボワだけでなくシャトー・シャロンやレトワールといった広大なテロワールを持つドメーヌROLET。このドメーヌでは、1/2サイズのヴァン・ジョーヌも生産されている。サイズは小さいものの、ヴァン・ジョーヌ特有の「クラヴラン」と呼ばれるボトルの形状をしっかりと保っている。

アルボワにあるドメーヌLIGIER。ヴァン・ジョーヌのために特別なカーブを設け、さらに樽だけでなくガラス製の樽を用いた製造にも挑戦するなど、意欲的なジュラワイン作りを続けている。

こんなにも魅力的なジュラワインだが、紹介される機会が少ないのは不思議だ。ジュラにはスパークリングワインのクレマン・ド・ジュラや、干しブドウを用いたヴァン・ド・パイユ、ブランデーを加えたマックヴァンなど、多彩な種類が揃っている。次回ワインを選ぶ際、赤か白で迷ったら、ぜひ黄色いワインを試してほしい。

ジュラワインの中には、ワインを搾った後の皮や果実をさらに発酵させて作るアルコール度数の高い「マール」や、収穫したブドウを藁の上で乾燥させ、甘みを凝縮させてから作る「ヴァン・ド・パイユ」などがある。これらはデザートと合わせて楽しめる。

Domaine Berthet-Bondet : https://berthet-bondet.com/
アルボワ市 Fête du Biou : https://www.arbois.fr/le-biou/
Domaine Les 5 WY : https://domaine-5wy.fr/
Domaine ROLET : https://domaine-rolet.fr
Domaine Ligier : http://www.domaine-ligier.com/

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