取材/文: 篠田哲生
REPORT/TEXT: Tetsuo Shinoda
エンジニアリングの可能性を広げるリシャール・ミルのコラボレーション
リシャール・ミルが積極的にコラボレーションを仕掛けるのは、エンジニアリングの可能性を広げるためである。そのためパートナーシップの相手はアーティストやセレブリティ、アスリートといった人々だけでなく、エアバス・コーポレート・ジェットや美術館のパレ・ド・トーキョーなどの企業や団体も含まれる。そのジャンルは多岐にわたるが、中でもモータースポーツへの情熱は別格だ。それはリシャール・ミルが“時計のF1”を目指して時計を製造しているからであり、また創業者のリシャール・ミル氏自身が、レーシングカーの熱狂的コレクターであることと深く関係している。
マクラーレンに続きフェラーリともパートナーシップを提携
スクーデリア・フェラーリF1チームのドライバー、シャルル・ルクレールとルイス・ハミルトン
リシャール・ミルでは、2016年にマクラーレン・レーシングとパートナーシップを結び、次いでマクラーレン・オートモーティブと契約。そして2022年にはフェラーリとのパートナーシップが始まった。レーシングチームとして始まったフェラーリは、F1世界選手権創設時から参戦し続けている唯一のチームであり、コンストラクターズタイトルを16回獲得し、9人のドライバーズチャンピオンを輩出している。モータースポーツの頂点に立つフェラーリは、時計界の頂点を目指すリシャール・ミルにとっては学び多き相手。有益なパートナーシップになるだろう。
360度のパートナーシップとなる、コラボ第二弾モデル「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」
2022年にリシャール・ミル×フェラーリのコラボレーション第一弾モデルとなる「RM UP-01」が発表されたが、実際にはこのモデルの開発はかなり前から進んでいたため、フェラーリ側のかかわりはそれほど深くなかった。だからこそ“360度のパートナーシップ”だと胸を張る第二弾モデル「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」は、フェラーリ濃度を高めた充実のコラボレーションモデルとなった。
元F1ドライバーのフェリペ・マッサの挨拶で幕を開けた発表会
このモデルの発表会は、3月20日にパリのパレ・ド・トーキョーで行われた。会場内はラボのような内装になっており、フェラーリのエンジンと共に登場したのは、リシャール・ミルの初代ファミリーであり、元F1ドライバーのフェリペ・マッサ。彼の挨拶からプレゼンテーションが始まった。
フェラーリエンジンからインスピレーションを得た新型ムーブメントCal.RM43-01
次の部屋ではエンジニア自らが、4年間かけて開発した新型ムーブメントCal.RM43-01を解説。エネルギーマネージメントを重視して、パワーリザーブ表示とトルクインジケーターを採用。ムーブメントのパーツも、フェラーリエンジンからインスピレーションを得たデザインを取り入れる。エンジンパーツと同様にブリッジにリブを入れることでパーツ強度を高めるのも、コラボレーションモデルらしい特徴だ。
ちなみに時計ケースは、カーボンTPT®とチタンの二種類があるが、ケースの重さや素材によって、ムーブメントへの衝撃の加わり方が異なるため、カーボンTPT®モデルの場合はトゥ-ルビヨンを支えるブリッジにネジがひとつ追加されている。こういった効果的なディテールを積み重ねることで、耐衝撃性能に優れた時計に仕上げていくのだ。
最大の特徴は、5時位置にオフセットしたトゥールビヨンキャリッジ
次の部屋はデザイン部門。「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」では、時計のデザインを考える前に、まずはスピットフォームという抽象的なオブジェを制作して、ノイズのないピュアなコンセプトをまとめる手法をとった。これは時計と自動車という異なるプロダクトを基盤とする二社がコラボレーションしていくうえで、進むべき方向を見定める重要な工程となる。
デザインのおける最大の特徴は、5時位置にオフセットしたトゥールビヨンキャリッジだ。これは左右非対称にすることで、躍動感を表現することが目的だ。また生じたスペースにはレーザーで彫刻された跳馬が入ったチタン製プレートが収まる。
クロノグラフとスプリットセコンドの針を操作するためのプッシュボタンは、フェラーリの原点であるレース部門、スクーデリア・フェラーリの90周年を記念したハイブリッド・スーパーカー「SF90ストラダーレ」のリアライトの形状からインスピレーションを得ている。磨かれたチタンとカーボンTPT®を組み合わせたボタンの造形美はため息モノ。ここまで手の込んだプッシュボタンはこれまでに見たことがない。
最高峰のエンジニアリングから生まれた美を体験できる二種類のケース
最後の部屋で、ついに対面した「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」は、二種類のケースが用意されていた。
スポーティでエネルギッシュな雰囲気をもつカーボンTPT®モデルは1,350,000CHF。ブラックをベースに、フェラーリのコーポレートカラーであるイエローを指し色に利かせた。もちろん驚くほど軽いが、精密につくられたプロダクトならではの存在感がある。
ジェントルマン・ドライバーのエスプリを表現したというチタンケースモデルは1,150,000CHF。フェラーリのレーシングカーに使われるレッドをクロノグラフ秒針に用い、さらにポイントにレッドゴールドPVDのパーツを利かせている。クロノグラフの操作性も極上で、プッシュボタンを押し込むと、適度な押し感でカチッと作動する。そのタッチだけでも、メカニズムの完成度の高さがわかるだろう。
どちらも生産本数は75本。購入するチャンスを得られるのは限られた愛好家のみだが、カーボンTPT®ケースとチタンケースのどちらを選んでも、最高峰のエンジニアリングから生まれた極上の美を体験できるだろう。
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篠田哲生
時計ジャーナリスト 嗜好品ライター
1975年、千葉県出身。青年情報誌を経てフリーランスに。仕事の傍ら時計学校に通い、時計の仕組みや技術を学ぶ。ビジネス誌やファッション誌、新聞、WEBなど幅広い媒体で時計記事を担当し、時計イベントなどにも登壇する。インテリアデザインにも造詣が深く、「ミラノ・サローネ」取材の経験も豊富。著書に「成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。」(幻冬舎)、「教養としての腕時計選び」(光文社文庫)がある。
1975年、千葉県出身。青年情報誌を経てフリーランスに。仕事の傍ら時計学校に通い、時計の仕組みや技術を学ぶ。ビジネス誌やファッション誌、新聞、WEBなど幅広い媒体で時計記事を担当し、時計イベントなどにも登壇する。インテリアデザインにも造詣が深く、「ミラノ・サローネ」取材の経験も豊富。著書に「成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。」(幻冬舎)、「教養としての腕時計選び」(光文社文庫)がある。