文: 野上亜紀
TEXT: Aki Nogami
レディスウォッチのさらなる発展を予感させた「RM 07-02 ピンク レディ サファイア」


あれはずいぶん前のこととなるのだが、スイスで開催されていた世界規模の高級機械式時計の展示会「SIHH」でリシャール・ミルの取材に赴いたときのことである。2016年の開催時、すでに注目を寄せられ始めていたレディスウォッチのさらなる発展を予感させるモデルである「RM 07-02 ピンク レディ サファイア」が登場した。会場では確か女性の編集者も数人いたと思うが、誰しもが「まるで宝石のよう……」と、つぶやいていたのを覚えている。どこから見てもクリアな美しさを持つサファイアクリスタルケースは淡いピンクの色彩を添えることでまるでジェムストーンのような魅力を湛え、その形容にふさわしい存在感を薫らせたのである。文字盤へのダイヤモンドセッティングもさることながら、自社開発ムーブメント「CRMA2」のローターに宝石を施したスケルトン仕様のキャリバー「CRMA5」を搭載することで、サファイアクリスタルケースならではのトランスパレントな魅力が一層際立つこととなった。
カクテルのイメージから名づけられた‟ピンク レディ”という名称にも、ライフスタイルの中で過ごす時間をラグジュアリーに彩るための、リシャール・ミルの遊び心を感じさせることだろう。そんな常識を覆すような、大胆なイマジネーションを形にするためには、やはり卓越の技術力が鍵となる。通常は時計の風防に用いられるサファイアクリスタルをケースにするためのブロックの生成に始まり、色の安定や切削、研磨一つをとっても非常に困難かつ、多大な手間と時間が要される。装飾性を高めた先述の「CRMA5」も然り、小さな部品をも‟ユニークピース”として捉え、隙の無い美観を達成する、同社の堅実な時計製作をこのサファイアクリスタルモデルは語り掛けたのである。
さらにカラフルとなった「RM 07-02 オートマティック サファイア」
そして満を持して登場したのが、この「RM 07-02 オートマティック サファイア」だ。目を奪うように鮮やかな、計3色の展開である。
風防にも用いられるサファイアクリスタルは、アルミナ粉末を人工的に結晶化し、成長させることで完成する。同じアルミナの結晶体であるコランダム構造のルビーやサファイアの合成宝石のように、人工的に着色するためには、アルミナの結晶体に酸化クロムやチタン、鉄などの不純物となる元素を混ぜていく必要がある。結晶の成長が始まる前に、加えた素材を均一に、そしてタイミングよく分散させていかねばならず、色むらはもちろん、生成過程の条件下によっては気泡やばらつきが生ずる恐れがある。今回発表となった3色の中でも、アルミナ粉末にサファイア鉄やクロム、チタン、バナジウムなどの複数の素材を加えたライラックカラーは殊に難しいとされ、可憐なブーケを思わせるこの淡い色彩は、リシャール・ミルによる素材への探求、その技術的躍進があってこそ生み出されたものなのだ。
文字盤にあしらわれたアーティでモダンなグラフィカルデザイン
そして新たに文字盤にあしらわれたのは、今までのサファイアクリスタルモデルとは異なる、実にグラフィカルなデザイン。
同社における昨今のレディスモデルに通ずる、実にアーティでモダンなセンスが継承された。そしてそれぞれのケースカラーに合わせて、今回はダイヤモンドのほかに、色とりどりの宝石を添えたという点も秀逸。グリーンにはツァボライトやクリソプレーズ、マラカイト。ライラックにはイエローサファイアとオレンジスペサルタイト、オレンジナクレ、ピンクナクレ、そしてホワイトメノウ。そしてピンクにはブルーサファイア、オレンジスペサルタイト、ホワイトオパール、ブルーオパール。ときには対向色をも交えた、アクセント溢れるパレットのような色彩がピュアなサファイアクリスタルの美観の中に織りなされている。ケースカラーに合わせた自動巻きムーブメント「CRMA5」の地板や、ローターのカラーサファイアも抜群のカラーコンビネーションだ。
さらなる輝きを増す まるで宝石のような腕時計


サファイアクリスタルケースにダイヤモンドをセッティング。
サファイアクリスタルはダイヤモンドに次ぐモース硬度9の素材であり、リシャール・ミルウォッチ特有の人間工学に基づいた、フィット感の高いスムースなケースに仕上げるには、1000時間以上にもわたる機械加工と仕上げの時間が要されることとなる。研磨だけでも350時間がかかる滑らかなフォルムに、グリーンとピンクのモデルにおいては、ダイヤモンドの瑞々しい輝きが添えられることとなった。
セッティングに採用されたのは、“ミトレイヤージュ”の技法。石を留めるためにゴールドのプロング(爪)を挿入するこのミトライヤージュはこれまでもリシャール・ミルのカーボンTPT®やセラミックモデルにも用いられてきた。ミクロン単位でのレーザー加工でサファイアクリスタルに直径0.25mmの下穴を施し、プロングを挿入するには従来よりも2倍以上の時間が要されたという。そうして生み出されたグラフィカルなダイヤモンドのラインは、透明感あふれるサファイアクリスタルケースと響き合うことで、見事な輝きの相乗効果を生み出すこととなった。
「RM 07-02 オートマティック サファイア」はリシャール・ミルにおけるレディスウォッチの進化を物語る、創造性豊かなキャンバスとして愛されてきた。今回描かれたのは、人間の知恵と技術から誕生した、まるでジェムストーンのように美しい世界。‟エクストリーム”な感性の中に高い技術力をもって綴られる独創的な美意識が、手に取るものに新たな夢を見せるのである。
ラインナップ


自動巻き、45.66×31.40×11.85mm
ライラックサファイアケース、30m防水
ダイヤモンド、スぺサルタイト、イエローサファイア、ホワイトメノウ
サテンストラップ、世界限定7本
2,088,000 CHF


自動巻き、45.66×31.40×11.85mm
ピンクサファイアケース、30m防水
ダイヤモンド、ブルーサファイア、ホワイトオパール、ブルーオパール、ホワイトメノウ
サテンストラップ、世界限定7本
1,740,000 CHF


自動巻き、45.66×31.40×11.85mm
グリーンサファイアケース、30m防水
ダイヤモンド、ツァボライト、クリソプレーズ、マラカイト、ホワイトメノウ
サテンストラップ、世界限定7本
1,864,000 CHF


自動巻き、45.66×31.40×11.85mm
グリーンサファイアケース、30m防水
ダイヤモンド、ツァボライト、クリソプレーズ、マラカイト、ホワイトメノウ
サテンストラップ、世界限定7本
2,088,000 CHF