新型911の凄味。

ポルシェ911は今年、誕生から56年の時を迎える。
スポーツカーとして同等の歴史を紡ぎ続けるモデルといえばシボレーコルベットくらいのものだろう。
その間、型式変更を伴うフルモデルチェンジは7回。
常に最新のモード&テクノロジーが導入され速さを
競い続けるカテゴリーにあって、
長きに渡りエンジン形式やデザインの継承にあこだわり続けるその姿勢が、
911を魅力的な存在に高めていることは言うまでもない。

 

8代目となる992型の911は、
その歴史においてはアグレッシブなフルモデルチェンジとして記憶に刻まれることになるだろう。
まず佇まいからして強く映るのは、
前型では四駆系に与えられていたワイドボディが
後輪駆動でも標準化されたことによるところが大きい。
加えて前軸トレッドの拡大に合わせて前輪側の幅も広げられており、さながらターボボディのような力感が漲っている。
灯火類は911の伝統を踏襲するが、テールランプが薄型化されるなど、ボディの塊感はひときわ強調されるかたちになっており、前後のバンパー下部をくっきりとブラックアウトすることでルックスを整えつつ軽快感が強調された。
登場までのカウントダウンを迎えているだろうポルシェ初のピュアEVであるタイカンともイメージを重ねた、未来的なデザインに仕上げられている。

 

インテリアはダッシュボードの造形やエアベントの位置、
その上に置かれた5つのメカニカルスイッチなどに空冷世代のオマージュを感じさせる一方で、
伝統の5眼メーターはセンターに物理針を用いたタコメーターが置かれるものの、
その左右は液晶化され、速度や温度類以外にも多彩な文字・図形情報の表示が可能となっている。

 

また、センターコンソールには10.9インチの液晶パネルが収まり、ナビやインフォテインメント、
各種車両設定などをタッチパネルでコントロール出来る。
ラゲッジスペースやキャビンスペースは前型比で大きな差異はない。後席を倒せば大きなスーツケースやゴルフセットも収めることが可能など、
ピュアスポーツカーとしては特筆すべき実用性の高さはしっかり継承されている。ボディは材料置換を拡大。アルミ材の使用率が70%に達し、前型比で12kgの軽量化と5%の剛性向上を果たすなど、直接的な性能向上にも寄与している。911は水冷世代以降、基本設計の多くをミッドシップのボクスター&ケイマンと共用しているが、
今後はランボルギーニウラカンやアウディR8といったグループのビュアスポーツモデルとの
シナジーも積極的に考えていくことになるだろう。
ともあれ911の動向は、昔も今もスポーツカーのあり方に対して重大な影響を及ぼし続けている。エンジンは前型から継承するライトサイジングコンセプトの3lフラット6直噴ツインターボを搭載。
ピエゾインジェクターの採用やターボの大径化、冷却効率の向上などで先んじて発表された今性能バージョンのカレラS/4Sについては前型比30ps&30Nm向上の450ps&530Nmのスペックを有している。
これはカレラSもカレラ4Sも同等のスペックだ。とはいえ、エンジンマウントの位置も変えるほどの手が加えられたシャシーの性能は、992型の最大の進化点だろう。
実感できるのは剛性よりも精度の高さで、低中速域の路面フィードバックはタイヤがブルブルと震えている振動感やサスが十分に伸び縮みしていない摺動感などのネガ要素が全然感じられない。
前後異径のバカでかいタイヤを履いていながらその軸心にはまったく濁りや淀みはなく、スッと凹凸を受け止めては霧散させる。スポーツカーとしては破格なほどに整然とした乗り味といえる。
日本の路上では高速道路のジョイント継ぎ目の段差などトリッキーなシチュエーションも現れるがゆえ断じることは出来ないが、それでも乗り心地に関していえばベスト・イン・クラスであることはどうやら間違いないだろう。

 

リアエンジンの911にはかねてから御することの難しさが語り継がれてきたが、サス設計やタイヤ性能に加えて電子制御も織り込まれてきた今日のモデルにはそれは当てはまらない。
992型では前側のワイドトレッド化もあってイニシャルの接地感が改善されているだけでなく、電子制御の緻密化によって911の苦手とする降雨時のライントレース性を徹底的に担保するウェットモードも加えられた。親切にも水の巻き上げ音をホイールハウス内のマイクで拾い、モニター越しにモード設定を促す機能まで備わっている。そしてサーキットラップでは凄まじく速い、そしてリアエンジンとは思えないほど気軽によく曲がるという運動性能以上に、全開の周回を何度重ねても安定し続けるエンジンやブレーキのコンディションに再び、三たびの感銘を受ける。
スピードと実用性というのは半世紀以上変わらぬ911の核心だが、それを下支えするのは盤石の信頼性と安全性だ。
万人に等しく優しい道具でありながら、一方でプロドライバーが感嘆するほどのパフォーマンスをみせる。
その両面をこれほど明確なコントラストで表せるスポーツカーも他にはない。
911が伝説で有り続ける最大の理由は新型でもしっかりとみてとれた。

 

ポルシェ
https://www.porsche.com/japan/jp/

文・渡辺敏史

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