大分市美術館で、特別展「MUCA展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜」が開催されています。ドイツにあるアーバンアートと現代アートの美術館「MUCA」が所蔵する貴重なコレクションを、初めてドイツ国外で展示する展覧会で、バンクシーの日本初上陸の彫刻作品や、カウズの初期作もラインナップ。現代アートに変革をもたらした貴重なコレクションを目にすることができる絶好の機会となっています。
シェパード・フェアリー〈MLK JR〉© MUCA / wunderland media
アーバンアートと現代アートに特化した美術館「MUCA」
MUCA(Museum of Urban and Contemporary Art)は、2016年にクリスチャン・ウッツとステファニー・ウッツによってドイツ初のアーバンアートと現代アートに特化した美術館として開館しました。ミュンヘンの中心部、マリエン広場からすぐの変電所跡地に位置し、アーバンアートや現代アートにおける20〜21世紀の最も有名なアーティストの作品を展示しています。設立以来、MUCAはこの分野での作品収集の第一人者として知られており、現在、1200点以上のコレクションを誇り、ヨーロッパで最も重要なアーバンアートと現代アートのコレクションの一つとして認められた美術館です。ポップアートからニューリアリズムまで、都市の中にあるアート、抽象絵画など多様なテーマを扱い、25年以上に渡り、アート業界に影響を及ぼし続けています。
ヴィルズ〈ディスパーサル・シリーズ #14〉© MUCA / wunderland media
そもそもアーバンアートとは何を意味するのか?
アーバンアートとは、都市空間で発達した視覚芸術で、一般的には、壁や建物、道路や橋などの公共の場所にアートを描くことを言います。都市の景観を変えることで、人々の心に訴えかけたり、政治的や社会的なメッセージを発信したりするもので、グラフィティやストリートアート、ポスターアートなどもアーバンアートに属します。
アーバンアートは街の至るところにあり、都市の風景から生まれた作品は、思わぬ場所に出現し鑑賞者に直接的に訴えかけます。人々は予期せぬアートとの出会いにより、社会や政治への関心が高まり、深い思いを巡らせることになるのです。本展に参加するアーティストたちは、都市のインフラをキャンバスに用いて、コミュニケーションを行います。彼らは儚い美学に対する独自の感覚を持ち、最も革新的な芸術運動のパイオニアとなっています。アーバンアートは言語、文化、宗教、出身地の壁を越えた視点から世界を見つめ、再考することを可能にする新しい芸術形態。その強みはルールや規則に縛られることなく、観客の目を向けさせることができる点です。本展では、過去40年間アーバンアートの価値の構築に貢献してきたアーティストたちのオリジナル作品を展示します。
バンクシーからカウズまで人気作が目白押し
本展で展示される作品は、バンクシー、カウズ、シェパード・フェアリー、ヴィルズ、バリー・マッギー、インベーダー、JR、オス・ジェメオス、リチャード・ハンブルトン、スウーンらの現代を代表するアーティストのものです。
バンクシーは言わずと知れた現代のアートシーンを代表するストリートアーティスト。世界的に有名であるにもかかわらず、その正体は不明です。14歳でスプレーを用いてグラフィティを描き始め、今では世界の各所に突然現れる神出鬼没の芸術家となりました。作品は常に政治的かつ社会的で、戦争や資本主義、支配層による権力の乱用に反対するメッセージが込められています。またバンクシーは、有名な美術館に自身の作品をこっそり持ち込むという不正行為をパーフォーマンスアートとして行ったこともあり、ロンドンのテート・モダンや大英博物館、ニューヨーク近代美術館などに、許可なく飾られました。またバンクシーとティエリー・ゲッタが制作したドキュメンタリー『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』は、アーティストの日常を映し出し、アーティストとは何かを問う作品で、アカデミー賞にもノミネートされたことでも注目を集めました。
本展では、バンクシーの〈ブレット・ホール・バスト〉が展示されます。2006年にバンクシー自身が開催した展覧会「ベアリー・リーガル」に出展された作品で、バンクシーの知名度が世界中に広がるきっかけになりました。古典的な彫刻胸像を再構築し、額中央に弾痕を表現することで、伝統芸術に風穴をあけるという意味が込められています。
バンクシー〈ブレット・ホール・バスト〉© MUCA / wunderland media
カウズはアメリカ・ニュージャージー出身のアーティスト。幼い頃から絵を描き始め、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツで学士号を取得し、1990年代には、グラフィティで注目を集めるようになります。その後バス停や、電話ボックスに貼られた広告の上に、自身が手掛けたアートをスプレーし、KAWS(カウズ)と名乗るように。広告の上にスプレーを施すという行為は、公共空間を取り戻すための挑発的な取り組みの一つです。バツ印の目が特徴的なコンパニオンというキャラクターを用いたシリーズは人気が高く、カウズを代表する作品となっています。シンプソンズ、スヌーピー、スポンジ・ボブなどの既存のキャラクターを再解釈し、リデザインする作品も人気です。ナイキを始め、大手ブランドとのコラボレーションや、カニエ・ウエストのアルバムジャケットをデザインするなど、アートと商業の境界を越えた作品を世に送り出しています。
そんなカウズからは〈コンパニオン〉シリーズがラインナップ。先述したようにカウズ作品の中でも最も人気のあるシリーズの一つで、カウズを語る上で欠かせない重要な作品です。このアイコニックなフィギュアは、コレクター向けアイテムの元祖となり、オークションなどでも高価格で取引されています。初期の作品を間近で見られるチャンスは少ないので、貴重な機会となることでしょう。
カウズ〈コンパニオン・ディセクテッド・ブラウン〉© MUCA / wunderland media
『MUCA展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜』
大分市美術館/2023年7月22日(土)〜10月9日(月・祝)
京都市京セラ美術館 東山キューブ/2023年10月20日(金)〜2024年1月8日(月・祝)
https://www.mucaexhibition.jp/